252話
「ちょっと待って欲しい」
そう言って割り込むんで来たのは傭兵隊長のハグノンだった。
彼の顔面は蒼白だ。
「戦争になるって言うのか?それはちょっと待ってくれねえか?」
「ふう、ハグノン、勝手に割り込まれては困るんだが?それに傭兵たる者が戦争を避けようとするのはどうなのか?」
「う、うるせえよへなちょこ野郎!!俺は言ったよな?コイツらはやべえって!!なのに何喧嘩売ってんだよ!!」
「へなちょこ?!君は上の者に対する言葉遣いを習ってくるべきだと思うが?この野蛮人が…そもそも、こんな子供が、よく分からない攻撃をしてきたなど、おとぎ話以下だよ。君の言う言葉は現実味が無い」
「んだとぉー!!」
ユウキの目の前で、何やら言い争いを始める二人。
そんな姿をボーゼンと見やるドワーフとエルフ達。
ユウキはと言うと…
『ふむふむ、なるほど。この交渉役として来た奴が、あっちの傭兵の言い分を嘘だと思ってた訳だ。だからこそ、コチラを格下だと思って接して来た訳だ』
彼らの会話は早口過ぎて、所々聞き取る事が出来なかったが、それでも何とか分かる範囲で理解した言葉は、コチラの戦力を理解していないって事だ。
何しろ、ドワーフ達の事を高価な武器を持った老人の集まりだと思ってたり、エルフ達を女性の集団だと勘違いしていたりと、なかなか笑えない事を思ってたらしい。
いや、エルフにもドワーフにも、翻訳出来るようにしていなくて良かったと思う。
この異世界の言語を精霊達を使って習う時間はあったのだが、リリーナがそれを止めた。
リリーナ曰く、『今現状で、下手に会話出来るようにするのはよろしくないのでは?』との事だった。
その時はよく分からなかったが、今になって思うと、この目の前の会話なんぞ聞こえていたら、絶対に大荒れになっていただろうと予想出来る。
『流石リリーナ、ここまで読んでいたんだ』
リリーナの預かり知らぬ所で、ユウキからの株が上がっ瞬間だった。
彼らの言い争いが激烈している間、紅茶を飲み干したユウキだったが、いい加減さっさと城に戻りたいと思っていた。
新たに起こした国内の農業や産業の進捗状況を記した書類が、結構な数上がっているのだ。
こんな所で、異世界の人間達の言い争いをなどを見てる間は無い。
一つため息を吐き、ドワーフ達とエルフ達に指で合図を出す。
サラリと出した合図は、『全員整列』。
極簡単な合図に、彼らは素早く反応すると、前列に二百名のドワーフ達が二列に並び、その後方にエルフ達が一列に並ぶ。
船に乗っている間に決めていた陣形だ。




