248話
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浮遊大陸南方沖合、そこには一隻のガレオン船が停泊していた。
甲板上では、大きな木箱を運ぶ水夫が、汗水垂らしながら動き回っている。
そんな彼らから離れた場所、中央甲板よりも二段程上にある後部甲板部、船尾楼と呼ばれる所に、その人物は居た。
無骨なガレオン船には似合わない豪華な椅子に座り、足を組んで頬杖を付きながら目を閉じている。
三十代前半と思われる男性は、南方の大国、キケロ都市国家同盟の位置付け一位のバレシオスだ。
彼は、この謎の大陸への調査船出港許可が出るや否や、すぐに船へと乗り込み、この場へとやって来たのだった。
これには彼の側近も驚いた。
本来、彼らの知るバレシオスと言う人物は、自ら危険な場所へと赴く者では無かったはずだからだ。
自身の治める街は、信頼出来る側近に任せて、僅かな伴を連れて乗船して来た。
事前に船長へと話を通してはいたが、何も知らない船員達は、いきなり最上位の雇い主が現れた事で、軽いパニック状態へとなっていた。
その後も色々ありながらも、何とか無事出港すると、今のこの地へと到着したのだった。
さすがに上陸許可までは降りなかったが仕方がないと諦める。
船に乗った後は、船長の判断に従うとの約束の元、ここまでやって来たのだからだ。
実の所バレシオスは、こういった冒険が大好きだった。
若い頃は、国内情勢も店舗の売上も興味を持たず、他国へと歩き回る商売人に憧れていた。
自分の見た事も無い世界を自らの目で見てみたい、それこそが夢であった。
親の跡を継ぎ、国の代表として他国を訪れるようにはなったが、それで収まるような気持ちでは無かった。
妻を娶り、子を成しても、冒険心は収まらなかった。
今回の件を渡りに船とばかりに利用し、他の者達が反対する前に出港直前の船への乗り込んだのだった。
今頃、本国では大騒ぎであろうと予想出来る。
そんな事を考えつつ、先程までの報告内容を吟味する。
『謎の大陸に原住民。あの巨大な壁の向こう側から現れた兵士達。そして、それらを指揮する子供…か』
最初にバレシオスが上陸する事は出来なかったが、代わりに側近を一人、向かわせていた。
その彼に全権を与えて、交渉させている。
「ふむ、マルコならやってくれるだろう。本来なら私が直接交渉するべきだろうが…歯がゆいものだな、立場と言うモノは」
思わず出た言葉は、自身が上陸出来ない事への愚痴なのか、商人として行動出来ない事への文句なのか、判断出来ない呟きだった。
座る椅子の背もたれに体重を掛け、ため息を吐く。




