247話
〜〜〜〜〜
「良い茶葉だね。実に美味しい」
「………」
「私の国にも欲しいくらいだよ」
「………」
互いに眼の前のお茶を飲みながらも、一方的に話す男性と、それに一切返答しないユウキ。
そもそもユウキは、彼ら傭兵を名乗る兵士に対して『自身の主の元へ行って返事をもらってこい』と言っただけだ。
誰も『自身の主』とやらを連れて来いとは言っていない。
そう思うと、とても陽気に話をしようとは思わない。
一応、嫌だと言う感情が表情に出ないよう気をつけてはいるのだが…はたして何時まで続けられるか分からない。
既にユウキの左頬は、ピクピクと痙攣していたりする………半分怒りによって。
まぁ、ユウキの話に対する返答をして来ない時点で、眼の前の男性が引く気無いと言っているようなものだろう。
『どうしたものか』と心の中でため息を付くユウキ。
「いやいや、この茶菓子も美味し 」
「本題、答える」
何時までたっても変わらない状況に、一石を投じろうと声を出す。
そもそも、眼の前の男性が何者なのか、何処の誰なのかが分からないから、ユウキも対処に困る。
少し驚いた顔をした男性だったが、ニヤリと意地の悪い笑いを見せ、手を顎下に持ってくる。
その顔は『自分の思い通りに動いてくれた』とでも言いたげな表情だった。
『なるほど、さっきまでのやり取りは、こっちの苛立ちを助長する為のものか。随分つまらん事をしてくれる』
この手の人間は、現実世界で働いていた時によく見た手合だ。
こちらを苛立たせる事で、冷静な判断力を失わせ、自分の思い描いた状況へと持ってくる。
問題は、何を企んでいるのかと言う事だが…。
「いやいや、お茶が美味しくてついつい忘れていたよ。ふむ、何の話だったかな?」
『こいつ…』
その言い回しに、イラッと来るユウキだったが、数秒目を瞑ると、瞬時に落ち着きを取り戻す。
この手の人間に怒りをぶつけても無意味だ。
「ふむ?」
感情を爆発させる事も無く、アッサリとしているユウキの態度を見て、首を傾げる男性。
まさか、落ち着いた態度で来られるとは思ってもみなかった。
「あ〜そうそう、確か傭兵団を引くかどうかだったね?」
「…」
わざとらしいその声にも、一切反応が帰って来ない。
さすがにココまで来ると、冷静なのでは無く、こちらの言葉を理解していないのではないかと考えてしまう。
実際のユウキ本人は、ちゃんと男性の言う事を理解はしている。
それ所か、こちらを煽るような態度を『わざと』している事にも気付いていた。
ユウキの態度を自分なりに考える人間族の男性。
ただ反応せず、様子を窺うユウキ。
暫しに睨み合いの後、先に口を開いたのは男性の方だった。
「この場から立ち去れとの事だったが、返答は拒否だよ少年」




