242話
「コチラの要求、さっさと出て行く、それだけ」
少し考えたが、どちらにしても言葉がカタコトでしか伝わらないのだ。
穏便に済ます事など無理だろうと、ユウキは早々に諦める。
ユウキの言葉に、ハグノンの片眉がピクリと動く。
まあ、そうなるだろう。
自分よりも年下の子供に、出ていけとストレートに言われればそうなる。
寧ろ、怒鳴りつけなかっただけでもかなりの人物と言えよう。
とは言え、そこは傭兵。
ユウキを正面から見下ろしつつ、睨み付けてくる。
普通の子供であれば、泣く所だろう。
僅かに殺気も乗せている事で、大の大人であっても尻込みする所だ。
だが、そんな事知った事かとでも言いたげに、涼しげな顔を向けてくる。
これにはさすがのハグノンも困惑気味だ。
怒りに怯えるでもなく、殺意に反応するでもない。
ただただ普通に立っている。
実の所、さっきまでのハグノンであれば、色々と警戒していた事だろう。
しかし、蓋を開けてみれば、出て来たのは老人と背の高い女共、そして子供が指揮を取っていると言う。
肩透かしを食らったかのように感じた彼が、ユウキを眼の前にして侮ってもおかしくはない。
人は見た目で判断し易い生き物だ。
「はぁ〜、おい小僧、俺達は傭兵だ、分かるか?雇い主がいるんだよ。その雇い主の命令を無視して帰る訳にはいかない」
「つまり、要求聞かない、そう言う事?」
ハグノンをジッと見るユウキの姿勢に一抹の不安を感じたが、それでも仕事は仕事と考えて答える。
「そう言う事だ。分かったらそこをどけ。お前なんかに構ってる暇は無い」
そう言ってユウキの左肩へと手を伸ばすハグノン。
後ろに控えていたドワーフ達が、武器を構え直す音が聞こえるが、それよりも先に、一筋の光が地面を刳る。
ハグノンの左前を光と衝撃波が通過して行く。
自身の出した右手とユウキの肩の間を通過したそれは、地面の表面に筋を付けていく。
固まっていた右手を引っ込めるハグノンだったが、何が起こったか分かっていなかった。
ただ、『恐ろしい何か』が、右手を掠めていったように感じた。
そして目を大きく見開く。
左手に細長い剣を持ったユウキが、無表情でコッチを見ていたからだ。
「何だ…今の…は?!」
混乱するハグノンだったが、何とか状況把握に努めようと務める。
混乱しながらも、ユウキの剣とその延長所に出来た線を見やる。
『まさか、あんな細い剣で地面を切ったのか?いや、一振りでこんな長い切り後が出来るハズが無い。いやしかし』
ハグノンが混乱するのも無理は無い。
何しろ、ユウキは一歩も動かず片手で武器を振るい、衝撃波を起こしたのだから。




