238話
上を見上げれば、一本のロープが垂らされ、そこを変な取っ手の付いた箱にぶら下がるようにして、三人の人影が、ひと塊になって垂直に降りて来る所だった。
『ガラガラガラ』と何かが回転する音と、『ギュルギュルギュル』と擦れる音が響いて来る。
そのまま、かなりの速度で地面に激突するかと思われたが、地面から五メートルの高さの所から落下速度が落ち、ゆっくりと着地する。
着地した人物を見ると、一人は背の高いヒョロリとした『女性』。
もう一人は背の低い、顔の半分を髭で覆われた男性。
そしてその二人の真ん中に、白いマントを身に着けた少年が立っていた。
三人とも、装備している武器や防具は、かなりの高級品に見える。
いや、高級なだけでは無い…と、ハグノンは見た。
防具は、体にピッタリと合った下地部分に、隙間無く付いた装甲部分、それでいて動きを阻害する事無く、それぞれの合わせ目が重なっている。
武器など、素材が分からないが、それでも刃の部分の輝きから、かなりの業物だと推測出来る。
『下手な手出しは不味いな』
そう結論付けると、部下に指示を出そうとした。
たが、それを遮るような声が響き渡る。
「んだこのガキは!!派手な登場で、こっちがビビるとでも思ってやがんのかぁ?!」
ハグノンの右側に布陣していた傭兵団から、派手な色彩の髪の毛をした男が複数人歩いて来る。
ハグノンは頭を抱えるしかなかった。
彼らは、上陸した傭兵団の中でも三番目に大きな傭兵団の隊長だ。
今回、この謎の大陸に上陸するにあたって、南方の都市国家同盟としては、それぞれが兵と食料、陣地形成の為の材料を持ち込む事が議会で決まっていた。
元々は、最初に行動していたバレシオスが、全てを取りまとめるとの話だったのだが、それに他の者達が反発。
結果として、バレシオスが全体の三分の一の兵力を持ち込み、他の議員もそれぞれが子飼の傭兵団を送り込む事で合意した。
ハグノンは、バレシオスと契約している傭兵であり、キケロ都市国家同盟内でも有名な傭兵団の一つだ。
対して、今目の間で騒いでいる男達は、バレシオスと競い合っているアントニウスの傭兵団だ。
ブルシオ傭兵団と言い、武力は高いが、各地で問題を起こす厄介な傭兵団として有名だった。
いや、この場合は『悪名』と言うべきだろうが…。
彼らブルシオ傭兵団は、何かにつけて因縁を付けている連中だった。
今も、ハグノンが動く前に自身が前に出て、この場での主導権を握ろうと考えているのだろうと予測出来る。
彼らブルシオ傭兵団は、事有る毎にこのような行動を取る。




