237話
「主様、我々二人だけと言うのは何故でしょうか?どうせ交渉するのであれば、全員で行くべきかと愚行しますが」
レンウェの発言は的を得ているとは思うユウキ。
「いや、今回は話し合いが目的だ。大勢で行くのは相手を刺激してしまう」
そう、目指しているのは相手側の撤退。
人間嫌いのリリーナにそれを任せたのは、完全なミスだった。
エルザの方は…有角族はそこまで人間嫌いではなかったと思うが、それでも一抹の不安が残る。
念の為、後詰めとしてのエルフ達を送り出したが、それでもどうなる事やら…。
こちらの戦力と向こうを比較すると、数の上ではコッチが上だ。
更に城壁上を陣取っている事で、もしもの事があっても一方的な戦況となるだろう。
向こう側が、この不利な状況に気付かないハズも無い訳で、説得は簡単だろうと、この時のユウキは楽観視していた。
正直に言えば、人間の欲と言うモノを甘く見ていたと言って良い。
リリーナやエルザが不安に思っていた部分だが、肝心の二人がこの場に居ない。
残ったドワーフやエルフ達では、そこまで住み込める位置に居ない。
結果的に、ユウキを止める事が出来なかった。
暫し、ユウキを見ていたリーグとレンウェだったが、観念したかのようにため息をひとつ吐くと、「仰せのままに」と頭を下げる。
そんな二人の行動に、少しだけ狼狽えたユウキだったが、咳払いをして誤魔化すと、下に降りる準備を指示するのだった。
〜〜〜〜〜
城壁下に集まっていた人間達はと言うと、それぞれが集まって、今後の行動をどうするか考えている所だった。
「どうしやすハグノン隊長」
「こいつは無理だな」
そう答えたのは、中央に陣取った部隊を指揮する傭兵の隊長だった。
南方の商業都市国家の中でも有名な傭兵団団長だ。
日に焼けた巨体と赤茶色の髪の毛が、歴戦の勇者のように見えると言われている。
そんな彼は長い間、色々な戦場を渡り歩いてきた。
だからこそ言える。
眼の前に聳える巨体な壁は、そう簡単に破る事は出来ない。
当然ながら、乗り越える事も難しい。
「今、後方で木材を集めてるそうです。梯子でも作るつもりなんじゃないっすか?」
「梯子か…」
部下の言葉に、顎髭を撫でながら考える。
普通に考えれは、梯子を作る案は…まぁ無難な所だ。
だが問題は…
「上に居る連中は何処の奴らっすかね?帝国か神聖王国っのどっちかでしょうが」
城壁上の人影が大問題だ。
例え上まで届く梯子を掛けたとしても、上に居る連中が見過ごすとは思えない。
最悪は、登ってる途中で攻撃される事だが…。
そんな事を考えている時だった。
部下の一人が上を指差し叫ぶ。
「人が降りてくるぞ!!」
その叫び声に反応し、周囲が動き出す。




