234話
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そんなエルザが、ガックリと頭を垂れているその時、南の城壁近くで、百名の人間達とドワーフとエルフの混成部隊を率いるユウキが、城壁の上と下とで対峙していた。
上に居るのはユウキ達三百名で、下に居るのは人間達百名だ。
ほんの十分前、ユウキ達を乗せた大型船が城壁内側に接岸し、そこから桟橋と上への簡易階段を設置して城壁上へと移動した。
『将来的な事を考えて、城壁内側から上へと行けるような階段を作るべきかな?』
顎に手を当てながら、そんな事を考えるユウキ。
ゲーム上では、城壁上から下へと移動する際は、それぞれ特定の位置にあるポイントに触れるだけで良かったのだが、現実世界になった途端、そのポイントとなる場所が消えてしまっていた。
各エリアの壁際にあったハズなのだが、それが無い。
この城壁を再生した際、上下に移動する方法が無くなるとは思ってもみなかった。
そもそもが、地上に降下する事を想定していなかった事も原因なのだが…。
「こうなると、城壁の外に対する監視要員も必要になる…のかなぁ〜」
「その通りだと思います主様」
ポツリと呟くと、側に控えていたエルフの男性が、左胸に手を当てて答えてくる。
今回率いて来たエルフの魔法使い達のリーダー的存在…と聞いている。
他のエルフ達と同じ、サラリとして長髪に切れ長の目、額に金で出来たサークレットを付け、白いローブと革の胸当てを付けている。
左手には二メートルはありそうな長い杖を持ち、右手には複雑な銀細工の指輪を付けている。
リリーナ曰く、今居るエルフの魔法使い達の中では、数少ない範囲魔法の使い手なんだそうだ。
ちなみに、範囲魔法が使える中級の魔法使いは、今居るエルフ二百人中十人程。
少なく感じるかもしれないが、正規の兵として訓練を始めたばかりの元一般人…一般エルフ?が、そう簡単に強力な魔法を使えるようになる訳ではない。
彼らの殆どが、元々猟師として戦闘経験があったりした者達ばかりだからこそ、魔法が使えた訳だ。
ユウキのゲーム知識的に言うと、中級の範囲魔法が使えるエルフの一般市民が、レベル四十から五十程度の魔法使いとの設定だったはずだ。
ただし、これはNPC側としての目安だ。
ゲーム参加者であるプレイヤーの場合、レベル十五辺りから範囲魔法を覚えて来る。
この辺りは、ゲームと現実との差と言える。
更にゲームプレイヤーとNPCと言う違いでもあるし、ついでに言うと、ゲームプレイヤーと違い、一般NPC達には、戦士や魔法使いと言った『職業』という概念が無い。
『魔法使いの職に付いたから魔法がバンバン使える』と言った事が無く、その人達が持つ才能が開花し、何かしらのスキルや魔法といった技能として現れるようだ。
『あ〜、何処かのタイミングで、その辺りの事も調べないとな〜』
このひと月程、浮遊大陸内での内政に集中していた為、その辺りの検証を一切していなかった事を思い出すユウキだった。




