233話
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沖合で方向転換をして去る船を見る。
甲板上で動く人間達は、帆を張って早くここから逃げようと必死になっている。
そんな彼らの動きを見て『はぁ〜』っと大きなため息を落とす女性が一人。
「まさか、仲間を見捨てて逃げるとは思ってもみなかったぜ」
獅子の鬣のような金色の髪の毛を『がしがし』と掻きながら、ついつい愚痴が出てしまう。
南斗の五将が一人、エルザだ。
彼女は、ユウキの指示により、この浮遊大陸東部に上陸した人間族を『穏便に』追い出すハズだった…のだが、何故か捕虜を得てしまった。
それも五十人近く。
この浜辺まで来たのも、向こうの船から気絶している人間達を引き取りに来ると予想していたからなのだが…まさか、助けにすら来ないとは思っていなかった。
少なくとも、不利な戦況にあっても撤退戦をしようとした敵指揮官の動きを見れば、援軍が出て来るだろうと予想していた。
向こうが援軍を出して近付いて来れば、そこで気絶している連中を全員引き取るよう交渉しようと考えていた。
まぁ、エルザとしては『最初にぶん殴っておけば大人しくなるだろう、多分』程度の行動だった。
しかし、その考えが全て裏目に出るとは思わなかった。
エルザ自身が強過ぎた事。
相手側の人間達が弱過ぎた事。
その二つの事が、全ての勘違いに繋がる。
最初に放った拳の一撃など、彼女の居た世界であれば、ちょっとした怪我程度の攻撃のはずだった。
だが実際には、エルザの一撃を受けた者達の殆どが、瀕死の重体となった。
さすがにコレは不味いと思い、その後の攻撃など、精々でこピンレベルの攻撃力に落としている。
それでもかなりの怪我となっていた。
彼らの防具の弱さも問題だった。
六枚も重ねた盾だったが、エルザにしてみれば『紙』のような防御力だった。
そして彼ら、人間達の認識力。
相手が一人とは言えど、その人知を超えた一撃は、彼らの心を吹き飛ばす程の代物だった。
人が簡単に壊されていく様は、戦うと言う意思すらも粉々に粉砕していった。
その結果が『敵前逃亡』となってしまった。
再度の進攻すら諦めさせる程の恐怖。
そんな事を読めなかったエルザは、周囲に倒れている人間達を見やって再度ため息を付く。
暴走したリリーナに対して鼻で笑った挙げ句、自分ならもっと完璧に出来るなどと思っていたと言うのに、蓋を開けてみればこのザマだ。
「あぁ〜、相棒に何て言やぁいいんだよ」
そう力無く呟いた彼女の背後、巨大な城壁から、後詰めのエルフ達が降りてくる。
「アイツらにも何て説明すりゃいいのか…」
ガックリと肩を落とすエルザだった。




