232話
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「なんてこった…」
大型船の上で報告を聞いた聖騎士団団長テレンスは、この不測の事態に困惑していた。
先行して上陸していた聖騎士団五十名と同行していた銃士隊五名が全滅したと言うのだ。
しかも、それを伝えて来たのが神殿騎士団だと言う。
神殿騎士団の方は、上陸していた五十名全員が『敵の猛攻を辛くも脱して、この船へと戻った』と言うのだ。
それが出来たのなら何故、聖騎士団は一人も戻っていないのか…と。
そう怒鳴りつけたい所をグッと我慢する。
今の状況では唯一の情報源だ。
オマケに指揮系統も違う。
幾ら国内では反目し合う神殿騎士団だとしても、この場で言い争うのは得策では無い。
ならばどうするか…答えは出ている。
「聖騎士団集合。急いで小舟に乗り込み島へと」
「待ちたまえ聖騎士団長!!」
聖騎士団へ指示を出そうとした瞬間、神官と神殿騎士団長がこっちへと向かって来る。
更に周囲を神殿騎士団が囲む。
「…何のつもりか?」
険しい表情で睨み付けるが、神官の方は「ひぃ?!」と小さな悲鳴を上げて一歩下がる。
さすがに神殿騎士団の団長の方は、その程度の威嚇で下がるような事はしない。
「既に船は出る準備に入っている。勝手な行動は謹んでもらおう」
「我々聖騎士団が神殿騎士団の命令に従う謂れは無いが?」
殺意を混ぜた視線を向けると、少しだけ意識が緩いだようだ。
神官の方は、何やらガクガクと足元が震えているようだが。
「確かに、従う必要は無い…が、貴様には王へと報告をしなければならない義務がある」
「………」
その一言に、聖騎士団団長テレンスの動きが止まる。
確かに、団長である以上、今現在の情報を王に伝えなければならない。
もしも今、この場所に副長がいれば、彼に任せていた事だろう。
だが残念な事に、テレンスの信用する副長ウィリアムはいない。
先行し上陸させた事が仇となった。
「くっ、だが」
「言っておくが、我々神殿騎士団から王へと報告はしない。する義務が無い事を言っておく」
神殿側から報告してくれれば良いと言おうとしたが、即座に却下される。
実際の所、彼ら神殿側と王国側とは組織体制が違う。
神殿騎士団が動かなくても問題は発生しない。
それは神官にも適用される。
彼らに命ずる事は出来ない。
「ぐぐぐ…」
「君達聖騎士団の不手際だ。自身で報告するべきだ。違うか?」
「………」
強く握り締めるテレンスの拳から、甲板上へと血が滴り落ちる。
その姿を一瞥すると、聖騎士団全員を船内へと追いやる。
勝手に暴走して上陸されても困るからだ。
別に、神官や神殿騎士が聖騎士達の身を案じた訳では無い。
単純に、彼ら自身の職務を全うしろと言っただけだ。
もしも彼ら聖騎士団の残りが全員上陸し、そのまま全滅でもすれば、関係無いとは言い切れず、神官達が王へと報告しなければならなくなる。
その結果、叱咤などされても困る…っと言うのが彼らの本音に過ぎない。
「ふん、奴らの尻拭いなど誰がするものか」
神官は、肩を落とし船室へと向かう聖騎士団に対して侮蔑の言葉を吐くと、忌々しいげに遠退きだした大陸を見る。




