231話
「うわぁぁぁー!!」
一人が叫び声を上げながら走り出す。
そうなれば後は連鎖的に崩れて行く。
目的は後方、そこにある小型の舟だ。
大型船から荷物を降ろす際に使用した小舟が四隻、まだ砂浜に揚げられていた。
逃げ出した騎士達が殺到し、阿鼻叫喚地獄とでも言える状態になってしまった。
真っ先に逃げ出していた神殿騎士団など、既に小舟に乗って沖合の大型船へと向かう途中だ。
舟に載せていた荷物を全て浜辺へと放り出すと、乗せれるだけ乗せて漕ぎ出す。
恥も外聞も無い逃げっぷりだ。
その舟に飛び乗ろうとする聖騎士達を海へと蹴落としながらも逃げる。
人間の醜さを凝縮したような光景が広がり始めていた。
それをチラリと見たウィリアムだったが、小さく舌打ちすると、残っていた聖騎士達へ向けて指示を出す。
「動ける者達は動けなくなった者達の救助優先、無理に仕掛けず撤退する」
「副長?!」
「素早く行動しろ」
そう言うと、腰の剣を抜いて女性の前へと出る。
牽制にもならないだろうが、多少の時間稼ぎなら出来る、そう思っての行動だ。
「お前、指揮官、だな?」
「なっ?!」
ウィリアムとの間合いは、大股で歩いても十歩以上はあったハズだ。
だが、少し目を外した瞬間、ひと息に詰められ、その襟首を掴み上げられていた。
「副長!!」
「おのれ化け物、副長を離せ!!」
まだ逃げていなかった聖騎士達が、それぞれ武器を持って殺到する。
だが、それらの攻撃を一切見る事も無く捌いて行くこの女性の強さに、思わず目が離せない。
死角から剣が振り下ろされても、かすりもせずに躱される。
逆に蹴りを食らって数メートルを吹き飛ばざれる。
槍を突き出しても、腰を捻って躱し、その槍を持つ手首を下から蹴り上げる。
槍は折れ、ついでに手首まで折れ、その痛みで地面でのたうち回る。
弓を放てば、空いている左手一つで捌いていく。
時には矢を指で摘むと、そのまま射手に手首のスナップのみで投げ返し、逆に肩や足へと刺さらせる。
人間離れした技の数々に、聖騎士達が次々と数を減らす。
数分と持たず周囲には、傷付き動けなくなった聖騎士達が倒れていた。
その身に纏う豪華な作りの鎧はアチラコチラ凹みまくり、最早鎧としての機能を有していない。
うめき声が聞こえる所を見ると、全員生きてはいるようだ…全く安心出来ない状況だが。
未だに首元を掴まれたままのウィリアムだったが、女性が困ったようにコッチを見る。
『何だ?』と思った次の瞬間、強い衝撃を受けて動けなくなる。
頬に当たる冷たい感覚は、恐らく地面だろう。
つまり自分は、地面に投げ飛ばされたのだ。
強い衝撃により、意識が遠退く。
『ああ…最早これまで…か…申し訳ありません…団長…』
船の上に居るであろう団長に謝罪しながら意識を失うウィリアムだった。




