表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/1239

229話

その時参加した騎士達は全員、一生この光景を忘れる事は無いだろう。


突き出した槍に生じた感覚は、肉に刺さる感覚では無い。

彼らも軍人、戦争で人を手に掛けた事は何度かある。


年若い者達も、一度は経験していた。

なのに、今の彼らが感じた感覚は、まるで硬い壁にでも槍先を突き付けた感覚だった。


石壁であったとしても、槍の穂先は鉄製だ。

多少は削るような手応えがあっても良いはずた。


なのに、その時は違う。

硬く、それでいて柔らかい不思議な物に当り、槍が進まなくなった。


いつもの感覚で言うならば、肉を刳る独特の感じになるハズだった。


「ほう、なるほど、貴様ら、殺し合い、所望か」


さっきまでは、神聖王国の言葉に何やら別の言語が混じってしまい、聞き取り難かった言葉だが、今、眼の前で喋って事は分かった。

ゆっくりと、明確に『殺し合い』と言った。


副長ウィリアムの頬に、嫌な汗が流れ落ちる。

槍が通らない化け物が眼前に立っており、更に殺し合いと言う単語を使う。


「待ってくれ、我々に争う気は」

「馬鹿、貴様?槍向けて、争う気無い?はっはっは〜」


盾を構えた騎士達の眼の前で、腕を組むとカラカラと笑い…


「殺すぞ、人間」


ドスの効いた声でそう答える。

それと同時に、凄まじい殺意を向けられる。

死戦を潜り抜けて来た聖騎士達が、先程以上の殺意に腰を抜かす。


最早、立っているだけで精一杯の状態だ。


「待て、待ってくれ。誤解なんだ!!」


ウィリアムの言葉に一切の反応も示さず、眼の前の女性は腰を落とす。

自然体からの中腰、更に右足を後ろに引くと、腰の捻りに合わせるように右手を腰横に添える。


左手を前に付き出すと、僅かな隙間を空けて構える。

ギチギチと、筋肉が絞られるような音が聞こえ、周囲に張り詰めた緊張が走る。


と、同時に騎士達が動く。

女性の正面に一枚の盾を配置し、上と左右、更に斜め上から斜め下方向へと、互いの盾を重ねる。


女性の正面には、計六枚の盾が重ねられており、それこそ破城槌でも耐えられる程の強度はあるはずだった。

前方に配備されている二十人の騎士達は、六人の盾の後ろに数人の騎士達が、衝撃を押さえる為に体を合わせる。


アメフトのスクラムのような感じだろう。

この世界にアメフトは無いが…。


互いが互いの体を支え、衝撃を吸収しようと構える。

その間に、左右に別れたそれぞれ十名の騎士達が、女性を包囲する為距離を詰める。


『彼女の一撃を抑えると同時に、左右から体の自由を失わせる。後は話し合いの席を設けて…』


副長のウィリアムは、この後の事を考えていた。

例え相手が武器の効かない者であったとしても、体の自由を奪ってしまえば…そう考えての言葉だ。


眼の前の彼女、有角族のエルザが聞けば、鼻で笑う事だろう。

彼らウィリアム達は、自分達の常識で物事を測ってしまった…それが敗因だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ