22話
キュッキュッと軽い音をたてて歩き、正面の機器類の前へと進む。
今更ながら気付いたが、自分の履いている靴が運動靴だった。
某有名スポーツ用品のちょっとお高い代物だ。
踵部分にエアークッションの付いているタイプで、足に負担を掛けない仕様になっている。
『あ〜、この靴履いて走ると速くなるって友達が言ってたっけ?』
小学生の頃、体育の授業の時にそんな話したな〜などと考えながら進んでいく。
後ろには、床の凹みからフワリと羽を使って音も無く飛んで来たリリーナがついてくる。
コチラは、履いているブーツが鉄製だからか、カツコツと甲高い音をたてている。
そんな事も気にならない程、今のユウキは緊張しながら歩いている。
何しろ
『確か、ゲームだとココまでしか進めないハズ…だったよな?』
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この指揮所は、キング·オブ·キングオンライン上では、それ程広い部屋ではなかった。
ちょっとした小部屋程度のハズだった。
体感で言うと、八畳程?
そんな部屋だがゲームでは、色々なテクスチャを貼り付ける事が出来た。
最初に誰でも手に入れる事が出来る自身の小部屋は、木目と石壁のどちらかを選択する事が出来る。
この小部屋は、各地にある宿屋に泊まると、毎回行く事の出来る自分の初期の仮拠点になる。
余分な武器や道具、ポーションや各種素材等を入れておける保管箱が設置されている。
この保管箱には、最大百個の物品を入れておく事が出来、何処の街に行っても、宿屋にさえ泊まれば使用出来る。
更に、課金する事で、容量を増やす事も出来るシステムだ。
今いる指揮所も、そんな小部屋シリーズの一つになる。
違うのは使用目的だ。
通常の小部屋であれば、所謂物置等に使用するのが普通だ。
複数の小部屋を持つのであれば、それぞれの小部屋に設置してある保管箱を武器用、防具用、アイテム用と言ったように分けたりする。
しかし指揮所は違う。
指揮所は、領土戦を行った場合の中心となる場所だ。
攻め手側はこの指揮所の占領を目指し、防御側は指揮所へと至る道に罠を仕掛ける。
旗取りゲームと言うモノがあるが、この指揮所は、その旗に当たる場所となる。
領地を得た後最初にやる事が、この指揮所の設定と、中心に設置するモノの選択になる。
選択するモノで一番多いのが玉座、次に多いのがクリスタルとなっている。
また、イロモノ系としては、自身の石像などもある。
攻め手側は、これらの設置物を破壊する事で、その領地全ての占領を行う事が出来る。
大群を持って領地を取り合うも良し、少数精鋭を持って指揮所となる場所を落とすのも良し、それがゲーム内での戦略となっていた。
意外な事に、大規模戦闘を推奨する運営が、この少数精鋭による奇襲攻撃だけは認めているのが不思議な話と言われている。
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ユウキは、この指揮所のテクスチャを 某アニメコラボイベの際に手に入れた第一艦橋に変更している。
昭和版の為、レトロなセンサー音と何だか分からない表情をするセンサー類がお気に入りだ。
ただしファンタジーな世界観とは全く合ってない、ミスマッチな景観になるが。
そんな小部屋だった場所の一番奥まで到達する。
ゲーム内なら、すでに見えない壁に当たって、自キャラがジタバタと歩くか走るモーションをしている所だが、リアルになった自分の前には、座席に操縦桿、その他のスイッチ類まで触れる所まで来た。
実際に触れてみる、伸ばした手のひらには座席の質感までしっかりあった。
いくつかのスイッチを押してみるがどれも反応しない、虚しく『パチパチ』と音がするだけだ。
「やっぱりダメかぁ〜」
実の所、一縷の望みを持ってスイッチ類を押してみたのだった。
せめて明かりくらいつかないかと思っていたのだが、やはり無理たった。
ガックリと大きく肩を落とすユウキだ。




