226話
そんな、水と油の関係とも言える二つの組織。
それぞれを指揮する者達が、どちらが先に上陸するかで揉めていた。
いや、正確には神官側が、聖騎士よりも先に上陸したくてしょうがないのだ。
言い合いも、神官側が騒ぎ立てるだけであり、聖騎士団団長テレンスは、自身の職務全うの為先を急いでいるだけだ。
先遣隊として、聖騎士団五十人と神殿騎士団五十人が上陸しているのだが、折角作った前線基地とも言うべき場所へ行こうとした所でこの騒ぎだ。
聖騎士団長にしてみれば、早く上陸して、防備を固める為の指示を出したい所なのだ。
せめてもの救いは、副長(見習い)のウィリアムを送り出している事だ。
もしかしたら、神殿騎士団とイザコザが起こっているかもしれないが、そこはウィリアムを信用するしかない。
彼は、聖騎士団の中でも最も腹黒く、外面だけは良いのだから。
コチラに対し食ってかかる神官の相手をしながらも、さてどうしたものかと考え込む。
正直、面倒なので先に行かせたい所なのだが、それはそれで何かあった時の対処が難しい。
そんな時だった。
敵の接近を指し示す鐘が一つ、大きな音を立てて鳴り響く。
〜〜〜〜〜
最初にその音に気付いたのは、聖騎士団副長見習いのウィリアムだった。
陣地にまで鳴り響くその鐘の音に、直ぐ様防備を固める指示を出す。
既に、北と南に他国の者達が上陸しているとの報告を受けていた。
その為、虎の子の銃士隊を二部隊も船から先行して降ろしていた。
連れて来た銃士隊は三部隊。
一部隊を船に残し、二部隊はそれぞれ北側と南側へと移動させてある。
敵に対する警戒の鐘の音を聞いてから直に、物見の兵を出していた。
その一人が、息を切らせて戻ると、「北より土煙を確認。敵の騎馬隊だと思われます」との報告に、騎士団を動かす。
外周に張り巡らせてある馬防柵の内側に、大きな盾を持った騎士達を配備。
真ん中部分を人一人分の隙間を空けて、そこに銃士を配備する。
銃士隊と名乗っているが、実際は『最新式の銃』一丁に対し、サポート要員が四名付いているだけだ。
とは言え、この世界では最新鋭の武器だ。
弓を越える威力と射程を持ち、重装備の騎士であっても、一撃で仕留める事が出来る。
そして何よりも数が少ない。
高価で希少な銃を拝領すると言う事は、騎士への任命以上の栄誉と言える。
それ程の代物を三丁も投入した事は、神聖王国の本気度を表すものと言える。
これが普通の兵士相手であれば…との注意書きが付いて来るのだが。
凄まじい砂埃は、騎士達が作る盾の壁も、その間から覗き見る銃口さえも無視して、猛然と近付いて来る。




