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222話


「さ〜て、んじゃ一丁行きますか」


屈伸を数回したエルザがそう言うと、左足を後ろへと伸ばして地面を踏みしめる。

クラウチングスタートのように上体を下げると、両手は地面に付けずに後方へと伸ばし、右膝を限界まで曲げる。


『身体強化』


小さく一言呟くと、体全体がブルリと震え、筋肉が盛り上がる。

薄っすらと輝く光は、体内へと魔力を流した証だ。


次の瞬間、右足が体を前へと押し出す。

前へと伸ばされた左足が地面につくと同時に、右足元が後方せと土煙を上げる。


その勢いから前に出た上体をそのままに、左足を曲げて右足を前に伸ばす。

後はその繰り返しだ。


後ろへと伸びた足元から、まるで爆発したかの様な土煙が次々に上がっていく。

一歩一歩、前へと進む度に速度も上がる。


そして、十歩目を越えた辺りで、途轍もない速度に達する。


エルザが、唯一得意とする魔法の一つ、身体強化の魔法だ。

この魔法を唱えると、身体能力が一定の間倍になる。


ただでさえ身体能力が高い有角族が魔法で強化されると、魔力系統以外の伸びが恐ろしい程上がる。

この状態であれば、高レベルの相手であっても、互角以上の戦いが出来る。


とは言ってもデメリットもある。

元々弱い魔法系の能力は、上がっても意味が無いレベルとなる。

さらに、魔法防御も低いままなので、魔法を使う相手には有利にならない。


現に、リリーナと模擬戦を行うと、魔法無しの近接戦ではエルザが勝ち越し、魔法有りだとリリーナの勝ち越しが多くなる。

とは言うものの、魔法使い相手であっても、その強化された素早さで一撃を食らわせられれば勝つ事も出来る。


そんな強化魔法をエルザは使用し、一気に浮遊大陸外周を走り抜ける。

このまま行けば、目的地まで一時間程度で到着するだろう。


そうは言っても、途中で強化魔法を唱え直さなければならない。

本来、魔法が使えないはずの有角族だが、エルザは珍しくも魔力を持ったタイプになる。


最も、自身への身体強化以外は、小さな火の玉を飛ばす程度の魔法しか使えないのだが。

そんなエルザの後ろ姿を何やら遠い目で見るユウキ。


本来であれば、リリーナを行かせるハズだったのだが、まさか現地人との最初の接触アプローチから暴走するとは予想出来ず、エルザを先行させる事に決めた………のだが。


「有角族に穏便な接触を求めるとか…絶対無理じゃね?」


指示を出した今になって、無謀な事をしてしまったと思ってしまう。


「せめて、七将の誰か一人でもいてくれれば」


今になって、他の将を早めに帰還させてなかった事を後悔するユウキだった。

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