221話
思わず叫んでしまったユウキに対し、ドワーフやエルフ達の視線が向く。
だが、エルザが軽く右手を振ると、それぞれの仕事へと戻っていく。
彼らとしても、目の前の惨状には何とも言えない状態だ。
いくら他国の人間族であっても、手足の骨を折られ、ぐったりとしている様は、同情心を湧かせる。
せめてもの救いは『全員気絶していて痛みを感じていない』と言う所だろう。
そんな彼らを拘束し一箇所に集めると、さてどうしたものかと考えさせる。
不可抗力にも、六十名もの捕虜を得てしまった現在、これを放置するべきか悩む所だ。
しかも、それをやらかしたのが、ユウキの眼の前で『正座するリリーナ』なのだが………。
「リリーナ、どうしてこうなったのか教えてくれないか?」
出来るだけ穏便にと、引き攣る頬を抑えながらリリーナに話しかける。
普段はお姉さんぶった雰囲気のリリーナが、まるで叱られた幼子のように体を縮めている姿は、何とも新鮮……と言うべきか?
いや、そんな事よりも………だ。
「いえ、その…最初は『所属不明の者達』を見つけまして、ちょっとお話でもしようかと思ったのですが…向こうが武器を構えたのでつい」
「『つい』で、これだけの負傷者を出したのか?」
眉間のシワを伸ばすように右手を出し揉む。
頭の奥がズキズキとする………ヤバイ病気とかじゃないよな?と、ついつい考えてしまう。
この兵士達を乗せて来た大型船は既に逃げ出しており、遥か向こうに見える。
逃げ出す事に文句は無いが、せめてコイツらを回収して行けと思った。
今から追い掛けようにも、浮遊大陸に上陸しようとしている者達はまだ二箇所ある。
そっちの対処の方が先だ。
そう考えると、気絶している人間達を全員、コチラの船へと運ぶように指示を出す。
力持ちのドワーフ達なら簡単な事だろう。
一旦、捕虜として回収し、機会を見て彼らの国へと戻す事とする。
今はそれしかないと考え直すと、次の指示をどうするか悩み出す。
リリーナの話によると、この北側から上陸した兵士達は、浮遊大陸の一般人と同等か少し強い程度と言う事が分かった。
まぁ………怪我の光明と言うべきなのか?実際に怪我したのが相手側なのだが。
「ふむ、時間が無い…か。仕方がない。エルザ、ここから南東側の敵には君が当たってくれ。頼む」
まさかの『リリーナ暴走』から、指揮をエルザへと変更する。
正直、リリーナよりも喧嘩っ早いエルザを先行させるのは、かなり不安なのだが仕方がない。
「分かってると思うが」
「まずは話し合いだろ?分かった分かった。そこのへっぽこの二の舞いはしねぇって」
ニヤリと笑うとリリーナを指差す。
そうやって煽るの止めてやれ。
指摘されたリリーナは、リアルぐぬぬを披露してくれている。
そんなに悔しいなら、ちゃんと言われた事を守れば良いのに………。
そう思うユウキだったが、あえて口には出さず放置しておいた。




