220話
ただ一人、伝令の為に全力で走っていたアイルは、ジーン達が僅か数分で叩きのめされていた事に気付いていなかった。
ただ、自分の得意な走りで、味方へと情報を届けないときけない、そんな思いで走り抜けていた。
そんな彼をあざ笑うかのように、何かの影が過ぎ去って行く。
自分の上を過ぎた影に『何だ?』と疑問を抱くアイル。
この島に上陸した時から、不思議な事が多かった。
目の前にある巨大な壁、草木一つ無い大地、そして本来、このような地があれば何処からともなく集まって来るはずの海鳥一匹さえいない。
それなのに、自分の頭上を何かが通り過ぎて行った。
鳥では無い何か?或いは『それ以外』の何か?
少しだけ上を見上げる。
天候が悪くなり始めた空に、白い羽が舞う。
鳥では無いそれは、人の形をしていた、
唖然とし速度を落としてしまったアイルを悠々と飛び越すと、そのまま真っ直ぐ進んで行く。
その先にあるのは『我々帝国軍の陣地』。
まだ作製途中だが、それでも四〜五十人は騎士がいる場所。
まるで地を駆けるアイルの遅さを嘲笑うかのように過ぎ去って行く。
ほんの少し呆けていた自分を叱咤し、すぐに駆け出す。
白い翼はもう見えない。
まるで吸い込まれるように、帝国軍の陣地へと消えていった。
陣地まで後五キロ。
「敵だー敵襲だぁー!!」
この距離で届くはずの無い大声を上げる。
いや、時間的にはもう無駄だろう。
既に陣地内へと侵入されている。
それでも叫ぶ、叫ぶしか手が無い。
大声で叫ぶアイルが陣地内へと飛び込んだ時には、既に殆どの騎士達が倒れ伏していた後だった。
北の大国たるザクリア帝国先遣隊百三十人中内六十人が、たった一人の所属不明の敵に襲われ全滅した。
大陸上陸後、僅か五時間の出来事だった。
〜〜〜〜〜
海の天候は変わりやすいと聞いていた。
浮遊大陸内では、その気になれば、天候操作を行う事も出来る…かなりの魔力を消費するのだが。
浮遊大陸内部は、現在晴天だ。
青空が広がっており、船出をするなら最高といえる気候だ。
それとは対照的に浮遊大陸『外』の天候は、雨こそ降っていないが、どんよりとした雨雲が近付いてきている。
あの様子では、夕方頃には雨が降り注ぐだろう。
あぁ、そうなる前には城に帰りたいものだ。
そんな事を考えながら、ついつい現実逃避していた自分は悪くないと思う。
何しろ………
眼の前で他国の兵と思われる者達が、大量に気絶している風景を見させられれは………と。
「は…ははは…ははは」
「あ〜相棒、落ち着けって、な?大丈夫、コイツら全員生きてるからよ。まぁ、重症者が半分以上だが」
乾いた笑いを上げる俺を宥めるエルザ。
いや、重症者が半分以上って、何してくれてんだよリリーナ!!




