218話
ジーンの静止の言葉よりも早く、ハルバードが横薙ぎに動く。
右手一本での速度とは思えない速さで振られるそれをギリギリで避ける。
「待ってくれ!!俺達は戦いに来た訳では」
「問答無用」
武器を持たずに会話を試みようとするが、相手は聞く耳を持たないとでも言う態度で応じてくる。
手のひらを相手側に向けながらも、敵意が無い事を指し示す。
「ジーン、こりゃ無理だ!!さっさと片付けようぜ!!」
「相手は一人だ、問題無い!!」
ロングソードを構えたロガの言葉に、両手にダガーを持つ男、エイブムが答える。
「この馬鹿共が!!」
斥候としては喧嘩っ早いロガとエイブムの言葉に、残りの二人も同調して武器を構える。
そんな仲間達を見て、悪態を付くジーン。
大きく息を吸うと、自身も愛用のダガーを抜いて構える。
「ロガとエイブムは前衛、デルと俺は後衛で掩護だ!!アイル、お前は本陣に戻って団長に連絡!!急げ!!」
ジーンの指示に、全員が動き出す。
長年、この五人でそれなりの数の戦争を経験して来た。
こんな時の行動は、毎度の事だ。
腕に自信のあるロガとエイブムが一気に間合いを詰め、左右に分かれたジーンとデルが隙を窺うように動く。
体の大きなロガと、同じくらいが体格が良いエイブムが、それぞれの獲物を左右から振り上げる。
二人が相手の意識を引き付けている間に、まるで骸骨かと思われる程痩せ細った男性デルとジーンが、左右に分かれて走り出す。
ロガ達が対処出来るなら良し、ダメならジーンとデルが痺れ薬を塗った投げナイフを投擲。
かすり傷一つ付けるだけで勝負は決まる。
それが彼らの必勝パターンだ。
たとえ、それらの攻撃を避けられたとしても、一番足の早いアイルが本陣へと走り抜ける。
その場合は、援軍が来るまで持ち堪えるだけ………そう思っていた。
眼前に迫っていたハズのロガとエイブムの二人が、空中に吹き飛ばされる姿を見るまでは。
「なぁ?!」
間抜けな声が聞こえた。
果たして誰の声だったのか?
あるいはジーン自身が出したのか?
空中高く飛んだロガとエイブムは、そのまま数メートル離れた地面へと落下する。
『ぐしゃり』と何やら不吉な音が聞こえた気がしたが、それどころでは無い。
目の前には無傷の女性、しかも振り抜かれたはずのハルバードは、元の位置へと戻っていた。
瞬き一つした程度の時間で、左側へと振り抜いた武器が元の状態、右手で持った状態に戻っている。
だから反応が遅れてしまい、投げるはずだったナイフを持ったまま固まってしまう。
思考停止は愚策、分かっていながらもしてしまった。
それ程衝撃的な光景だった。




