216話
斥候として、一番最初に上質した彼らは、三つのグループに分かれて、それぞれ探索を開始していた。
左右に分かれた者達は、周辺に異常が無いかを確認し、次々と上陸する仲間達を迎え入れている。
だが、正面へと展開した者達は、巨大な城壁を前にして、明らかに困惑していた。
「これ、どう見ても石壁だよな?それも、かなり上質の…」
巨体な壁まで後数百メートルと言う所で、彼らの動きは止まっていた。
何しろ、遠目に見えていたよりも遥かに巨大だからだ。
彼らは上陸当初、そこまで高い壁とは思っていなかった。
精々十メートル程度。
素材も木造ではないかと予想していた。
「あり得ない…と言いたい所だが、これを見せられればな〜」
「それで、どうするジーン、このまま進むか?それとも一旦引くか?」
正面に展開していた五人の中で、中央に居た小柄な男に、左側の大柄な男が尋ねる。
中央に居た小柄な男、この斥候の隊長のジーンは、その二択に対してどうするべきか考える。
ある程度の情報は得た…が、まだハッキリした答えが無い。
答え…そう、この眼の前の壁を作ったのが『何処の誰なのか』を。
作り方で何処の国が作った物なのか、或いは石の素材で判明出来ないか、それ以外にも何かしらの手掛かりが掴めればと思うのだが、それと同時に『引くべきか?』との思いも出てくる。
ジーンフリート、通称ジーンは、年齢的には四十代だが、若い見た目で二十代に見える。
その若く見える外見を利用して、他国への間者としての潜入捜査を主目的に動いていた。
だが、彼の直属の上司であるアガーフォンが左遷された事で軍を離脱、そのままアガーフォンに付き従うようになった。
そんな彼は、間者働きだけでは無く、斥候としての能力も高い。
特に勘が鋭く、自身に降りかかるであろう不幸には敏感だ。
戦場でもその勘に頼って生きて来た。
仲間の危機も回避して来た…ハズだった。
「おいジーン、どうした?おい?!」
仲間の一人、大男のロガが話しかけて来るが、それどころじゃない。
ジーンの勘が告げている。
『早くここから逃げろ』
と。
額から汗を流しつつ、感覚は周囲の気配を探知し、目線は何故か壁の上へと張り付いている。
この謎の壁に近付いていった時から目が離せなかった。
壁…いや、この巨大な城壁の上。
時折、太陽の光が反射して、何かがキラリと光っている。
遠くから見た時は、何かしら物が置いてあるのかと思っていた。
だが、近付いていくと、徐々に何が光っていたのかが分かる。
いや、ハッキリと分かる訳では無い。
その光る場所に、人らしきモノが立っていたからだ。
遠過ぎる為、シルエットでしか判明出来ないが、間違いなく人だろう。
恐らくは、見張りの兵士か何かだと予想出来る。




