215話
「ならば、あの壁はその間に作られたと言う事になるな」
「そうなりますかね。ですが若君、あれ程の物となれば、たかが三十日程度で作れるとは思えませんが?」
謎の壁を見ながらも、そう結論付けるアガーフォンに、ボリスは難しそうな顔をしながら答える。
帝国で見る城壁に比べて、倍以上は高く見える。
素材は遠過ぎて分からないが、もしも石等の切り出しであれば、三十日どころか十年…いや百年はかかるかもしれない。
当然ながら、それだけの時間と同時に、人員に金銭と天文学的なモノとなってしまう。
「それだけの物を短期間に出来る国があるとは思えないが?」
「ですが、目の間に現存する以上、何かしらあると見るべきでしょう」
『現実的にあり得ない』と断言するアガーフォンと『何か理由がある』と考えるボリス。
年若いハズのアガーフォンの視野が狭くなっているのは、経験の差によるものだろう。
ボリスは、それまでの経験から、何か特殊な方法があると考えている。
「若君、どちらにしても、まずは偵察から始めるべきです。今必要なのは情報ですから」
「そうだな」
アガーフォンは腕を組むと、上陸艇を見る。
既に先発隊の半分、五十人程が陸へと上がっている。
彼らが陣形を整え終えたらアガーフォン達本隊が上陸する事となる。
「何事も無ければ良いが」
「彼らも一騎当千、問題ありますまい。それに、本国から新兵器も送られて来ていますし」
ボリスが指し示す方向には、長い筒のような物を担いだ軽装備の兵が四人、上陸を待っている。
彼ら帝国軍が誇る『銃士隊』と呼ばれる者達だ。
帝国内に、僅か十人しか居ない銃と呼ばれる武器を扱う特殊な兵士。
その一人が派遣される程、今回の上陸作戦は重要視されたいる。
「そうだな。我らは我らの出来る事をするだけだ」
「その通りです、若君」
そう言うと、胸に手を当てて軽く頭を下げるボリス。
そのボリスに「若君は止めろ」と一言言い放ち、アガーフォンは上陸艇へと向かって行く。
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アガーフォン達がまもなく上陸しようとしているその時、偵察に出ていた彼らにも異変が起こっていた。
「おい、この壁全て石壁だぞ。それもかなり上質の」
偵察に出ていた彼らは、周囲に注意しながらも、眼の前に聳える壁へと視線を向ける。
白いその壁は、まさしく侵入者を拒む巨体な城壁だ。
城壁周辺は遮蔽物の無い大地、そして、三〜四十メートルはありそうな高い壁。
全てが、コチラを拒むかのように立っている。
近付けば近付く程、人間技とは思えない作りに唖然としてしまう。




