211話
「はぁ〜、生き恥を晒しちまったぜコンチクショー」
「ホント、さっきから何言ってんだ相棒?」
エルザの左肩に担がれた状態のユウキが、遠い目をしながら呟く。
今現在エルザとユウキは、大きな帆船に乗って海原を進んでいる所だ。
エルザは、禍々しい赤色をした小手と脛まで保護するブーツを履き、彼女的完全防備状態で甲板上に立っている。
時折、波によって大きく揺れるが、その強靭な足腰は、一切揺るがない。
しっかりとバランスを取っていた。
一緒に船へと乗り込んだドワーフやエルフ達など、慣れない揺れに悪戦苦闘し、船縁から海へと顔を出している。
船酔いによる…………まあ、アレだ、『けろけろ』している訳で。
そんな彼らの惨状から身を逸らすと、エルザと目が合うユウキ。
「な、何だよ?」
「いや、よく似合ってるな〜っと思ってな」
「ぐぅ…」
エルザのその言葉に、折角忘れようとしていた事実が降ってくる。
今のユウキは何故か、逃走を企てた際に着ていたメイド服姿だからだ。
それと言うのも、変装しようとしていた所を見つかり、言い訳も出来ないままリリーナの元へと連行。
その姿のまま、リリーナの説教を聞かされ、現在に至る………と。
うん、意味が分からない。
リリーナ曰く、
「今は時間がありません。なので今日一日はその格好でいてもらいます」
いや何でさ?!時間あるやん?今まさに!!ほんの十分もあれば着替えられるよ?ねぇ、どうして?
着ているメイド服だが、英国式とでも言うのだろう。
黒のロングスカートに白いエプロンと言う、よくある代物だ。
「まぁ、ミニスカートじゃなかっただけ良しと………したくねぇよ」
「やれやれ、騒がしい相棒だな」
そう言うと、ケラケラと笑うエルザ。
いや、確かに変装してまで逃げ出そうとしたユウキが言って良い事では無いが、この格好はどうなのか…と。
しかも、向かっている先が北の外壁。
リリーナの話によると、北、東、南の三ヶ所から、浮遊大陸へと上陸しようとしている者達が居ると言う話だ。
その話を港町へと移動する間の馬車の中で聞かされたユウキだったが、それよりも着替えがしたくてしょうがない状態だった。
相手側の数が分からない為、一応騎士団でもあるドワーフ達と、魔道士団と新たに名付けたエルフ達全員を招集し、この大型船で出港して来たのだった。
この船であれば、それぞれの場所への移動に掛かる時間が、かなり短縮出来る。
それに、もしも相手側が強かった場合は、即座に乗船して逃げる事も出来る。
そう考えて船を出させた。
決して、ユウキがこの大型のがレオン船を見たい、乗りたい、触りたいと思ったからでは無い、うん、決して無い。
その代償が『メイド服』だったのは、痛恨の一撃だったが…。




