209話
基本的にユウキは『お人好し』であり、『甘い』とも言える。
少しでも知り合いになれば、ちょっとした事でも心配する性格をしている。
ひと月も一緒にいれば、その程度の事は把握出来た。
その為、エルザと二人でユウキの補佐をし、脇の甘さをカバーする。
この浮遊大陸の住人は、一部の者達を除いて、ユウキに対し友好的だ。
だからと言って、ユウキに不利益な事をしないかと言うと、そうでもない。
どれ程友好的であっても、自分本位な部分はある。
そういった者達の佞言とも取れる発言は、ユウキにとっても周囲の者達にとってもよろしくない。
『人が良過ぎるのも問題です』
と、リリーナは常々思っている。
ユウキが今の子供の姿になる前は、何処か掴みどころの無い不気味さのある人物だった。
感情を表に出さず、淡々と推し進めて行く、そんな人物像だった。
それがどうだ、今では『ヤンチャな子供』となってしまっている。
少し目を離すと、すぐに外へと逃げ出そうとする。
一日一回は、そんな鬼ごっこのような事をしていた。
前のマスターは、何処か人離れしたイメージだったが、今のマスターは、随分人らしいと思う。
「どちらもマスターなのでしょうけど、もう少し落ち着いてくれれば良いのに」
ついつい愚痴ってしまう。
仕事をしてくれない訳では無い。
事ある毎に、外の世界を見たいと駄々を捏ね、逃げ出す。
その逃走方法も、徐々にレベルアップし、見つけ難くなって来ている。
そちらの方も頭の痛い問題だ。
眉間を軽く揉むと、顔を上げて書類を持つ。
「結局、最後はマスター頼りになってしまうのですけどね」
自重気味に呟くと、部屋の扉を開けて出て行く。
目的地は隣の部屋、ユウキが執務を取っている場所だ…が
「リリーナ様大変です。ユウキ様が脱走しました」
通路に出た途端、猫の獣人メイドが駆け寄って来た。
彼女は、ユウキの身辺警護兼給仕を努めていた者だ。
おっとりとした見た目とは裏腹に、武器の扱いにも長けた女性だ。
気配を消して背後に忍び寄るその技は、とてもではないが普通の人では無い。
実の所彼女は、別の大陸に住んでいた暗殺者だった。
そっちの方では裏の仕事をメインにしていたらしく、所謂『汚れ仕事』をしていた人物だ。
ところが、彼女の所属する組織が、別の同業者との争いに負けた為、故郷を捨てて浮遊大陸へと流れ着いたとの事。
本人も、『そっちの仕事に未練はありません』と、ハッキリ言う状態。
その腕を買われて、現在ではユウキ付きのメイドとなっていた…のだが、何故か漂うポンコツ臭。
どういう訳か、彼女の目を盗んで逃げ出すユウキの腕前が不明である。
その後、他のメイドや執事を動員して城内を探した結果、衣装部屋でメイドに変装しようとしていたユウキが発見、確保される。
発見したメイドたちは、困惑顔であったと言う。
困惑していた理由は、やけに似合っていたからだとか………。




