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206話


〜〜〜〜〜

北方の勇ザクリア帝国南西側の海域を大型船が一隻、風を切って疾走している。

だがその船上は、海の男達が右往左往している状態だった。


「くそ、補強材だ!!補強材を持って来い!!」

「こっちも浸水している!!」


日に焼けた体に汗を流しながらも、肩に担いだ板を持って船内を走り回る男達。

彼らの到着先には、勢いよく水が飛び出していた。


「よしここだ!!板を貼り付けろ!!」


三人の男達が、水の勢いを押し返しながらも板を船体内部へと当てる。


「よし、角材持って来い!!」

「押し当てろ!!」


後ろから来た船員が、長い角材を板に当てて固定すると、水の勢いが収まる。

そのタイミングで、別の船員が左右から釘打ちを始める。


釘を打ち終えると、角材を外して一息付く。


「くはあ〜、今度は間に合わねぇかと思ったぜ!!」

「ああ、まったくだ」


壁に背中を当てつつ、疲れた表情をする船員。

彼の言葉は、ここ何日か続く浸水騒ぎへの対応に対する疲れが現れていた。


一日に一回、多い時は三回も小さな穴が船体下部に開き、修復作業へと駆り出される。

彼らが目指す島に近付けば近付く程、その頻度が増えているように思えた。


実際、出港する前に、あの沖合に突如として現れた島へと向かった船が、何隻も浸水騒ぎで逃げ帰って来たと言う噂だ。

どの船も、船底に穴が開いてしまったと言う。


それを聞いた船乗り達が、『海の呪いだ』と言い出した為、出港がかなり遅れてしまったのだった。

この大型船は、帝国軍が私掠船として使っている船であり、そこで働く彼ら船員は、帝国軍人であり、国公認の海賊でもあった。


そんな彼らだからこそ、呪いだ何だと言う言葉を振り切って出港して来たのだ。

『沖合に現れたと言う島、そこに上陸出来れば騎士、或いは貴族になる事も出来る』と言われ、その言葉を『半分だけ』信じてこの場にいる。


「後数日だってのに、この有様かよ」

「なあ………これって本当に呪いなんじゃ」

「………うるせぇよ」


すぐ隣で座り込んでいる仲間のボヤキに力無く返答する男。

彼も、この仕事を請け負った事を後悔している。


どの国よりも早く上陸するだけで騎士になれる、貴族になれる、そんな美味い話に『本気』で乗せられるような者達では無い。

だが、『金払いだけ』は良い為、最悪それだけでも良いかとは思っていた。


「お客さんの騎士団さえ降ろせば…俺達の役目は終わりだ。それまでの我慢だ」


力無く言った彼だったが、それだけで終われるとは思っていない。

島に近付けば近付く程に『イヤな予感』がする、それだけだった。




〜〜〜〜〜

大型船の後方五十メートルの海。

その一部が盛り上がると、大きな魚の顔が出て来る。


普通の魚より大きな目が、ギロリと大型船の後ろ姿を捉える。


「あの船硬い。思った程のダメージを与えられない…足止められない…伝えないと…」


そう呟くと、ゆっくりと海の中へと沈んで行く。

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