201話
「ところでマスター、集めた情報の中に、何やら不穏なモノがありました」
姿勢を正したリリーナが、一枚の紙切れを出してくる。
綺麗な字で書かれたそれを読むと、ユウキの眉間に皺が寄る。
書かれている内容は、浮遊大陸向こうに位置する港で、大型船舶が出向準備をしていると言う内容だ。
しかも、沿岸にある小さな港からも、小型船舶を中心としてこの浮遊大陸に向かっていると言うのだ。
文書を隅々まで読むと「ふむ」っと小さな声を出し、顎に手を当てて考え込む。
小型船舶は、行き足が早い為、場合によっては数日後にもコッチに到着する恐れがある。
いや、もしかしたら、もう既に近隣に来ている可能性も…。
さて、どうしたものかと椅子の背もたれに体重を掛けながらユウキは考え込む。
ユウキとしては、外の国々との交流など考えてはいない。
そもそもコチラは、この世界の外側から来たような存在だ。
下手に接触しても不幸な未来しか見えない…っとなれば。
書類を見て顎に手を当てて考え込むユウキを リリーナは小さく微笑みながら見やる。
ユウキに渡した情報は、かなり抑えたものだ。
実際、この外の世界の言語収集中に集めた情報を再度精査した所、かなりの数の国々が、この浮遊大陸を『占拠』しようと動いている事が分かっている。
まあ、この浮遊大陸が『無人の島』だと勘違いしての行動と言動なのだろうが、この事を知った一部の者達の反発は凄まじい。
エルザなど、「はん、上等じゃねえか。上陸するなら粉々にしてやんよ」と、かなり本気の怒りを醸し出している。
本来のエルザの性格であれば、ここまで怒りを露わにする事は無い。
しかし今回の件は、外から押し寄せて来ようとしている連中が、全て『人間種』である事。
更にその事が、この浮遊大陸に『不意打ち』を仕掛けて来た『あの二十二名の異邦人』を彷彿させる事から、どうにも怒りが込み上げて来るらしい。
まぁ、相手側にしてみれば、『理不尽な言い掛かり』と言える話なのだが…。
どちらにしても、外から来るであろう者達に対して、友好的な接触は無理だろうとリリーナは考えてる。
後は、この浮遊大陸の『王』であるユウキの判断次第なのだが…。
願わくば、彼ら人間族との断行をと、願っているリリーナだ。
そう願っているのがリリーナだけでは無いのが、実は大問題なのだが…。
ちなみに、コッソリとリリーナが行動を起こしていて、足の早い小型船舶は、浮遊大陸沿岸部に接岸出来ないよう裏から手を回している。
簡単に言うと、浮遊大陸内に居る海の一族を外の海に出し、小型船舶の航路を邪魔、或いは船底に穴を開けて引き返させるといった事をさせている。
独断専行の行いだが、その事を知っているエルザも黙認の構えだ。
彼女達自身、この浮遊大陸へ『ユウキ以外の人間族を受け入れる』事を拒否している構えだ。




