1話
そこは不思議な空間だった。
真っ暗な部屋に、丸や四角い計器類が所狭しと並んでいる。
一昔前のSFアニメに出て来そうな見た目だ。
壁際には、誰も座っていない無人の椅子類にチカチカ点滅を繰り返す機械類、ピコーンピコーンとレトロな音を鳴り響かせている。
正面を見れは、巨大な窓の外に宇宙空間が広がっている。
天井にも巨大なモニターが付いており、そこにも宇宙が映されていた。
知ってる人が見れば、有名なアニメ『某宇宙戦艦なんちゃら』の艦橋ソックリだ。(ただし、リメイク前の昭和版)
そして、アニメでは艦長席がある場所には、円筒状のお立ち台の様な物があり、その上には三人の人物が立っていた。
中央に立っているのは、船長帽を目深に被る中年の男性。
黒いシャツと白いズボン、肩から真っ赤なマントを翻している。
これもまた、知ってる人が見れば「何ちゃら殿へヨーソロー」のセリフで有名な某悪魔合体の人ソックリの人物。
ただし、似てはいるが、髪や瞳の色等は黒色、本物にはある顎髭も無く、スッキリとした顔立ちだ。
さらに腰には日本刀が差してある辺、服装だけ似せているコスプレイヤーに見える。
そんなナンチャッテ船長モドキの右側には、全身真っ白と言う感じの女性が立っている。
白磁の様な白い肌に銀色の髪の毛、瞳はグレーの美女だ。
特徴的なのは、優しく垂れ下がった慈愛の瞳と左目下にある泣きぼくろだろう。
だが、さらに特徴と言えるモノがある。
背中に背負う大きな翼だ。
二枚の白い翼が、本人の僅かな動きに合わせてユラリユラリと揺れる。
体に纏う衣装も白を基準とした膝まであるドレスローブ。
豊満な胸元には、その大きな胸を強調する様な銀の胸当てが付けられている。
更に銀の小手に銀の脛当て、ブーツも銀のキラキラ仕様だ。
そして、その全ての装備に金色の繊細な模様が刻まれている。
傍目には『ゴージャスを身に纏う』とでも言えそうだ。
そんな翼を持つ彼女とは対照的なのが、ナンチャッテ船長モドキの左側に立っている人物だ。
健康的に日焼けしたかの様な褐色の肌に茶色い瞳を持ち、まるでライオンの鬣の様な金色の髪の毛を持つ女性。
背も高く筋肉質な体つきは、まるで鍛え上げたアスリートの様だ。
ツリ目気味の目つきは、見る者に威圧感を感じさせる。
さらに特徴と言えるのが、その頭部、こめかみ辺りから後方に向けて伸び渦を巻く二本の角だ。
彼女の装備も個性的だ。
上には何も着ておらず、胸だけを隠す様にさらしを巻いている。
それでも、さらしの圧力に負けるものかと大きな胸が主張している。
下は半ズボンのような物を履いているが、所々にアーマーの様な物が付いている。
二の腕までガードするかの様な小手と足首まで覆う脛当てにブーツ、その全ての装備が、禍々しい赤黒い色合いだ。
翼を持つ彼女が『慈愛』を体現しているとしたら、渦巻く角を持つ彼女は『破壊』とでも言うべきだろうか。
そんな三人がジッと見つめる先にあるのは、縦五メートル、横ニメートルはありそうなクリスタルの柱だった。
某艦橋の中心部にフワフワと浮遊しているそのクリスタルの柱を見ている。
よく見れば、クリスタルの表面に映像が映っている。
そこに映し出されているのは、これまた某巨人と人間との戦いを描いたアニメに出てきた壁そっくりの上、小さな生き物がチマチマと動き回っている所だった。
さすがに空中を飛び回る様な事は無いようだったが…斜め上から見下ろすように映っている光景は、何とも殺伐とした様子だった。
壁の上を半円状に切り開こうとしている人間達と、それを囲む様にして攻撃している小さな人モドキとの戦いがそこにあった。
人間側は僅か二十名程しか居ないが、それでも手に持つ武器、剣や槍、斧やハンマーといった武器を振り回す度に小さな人モドキが光の粒子となって消えていく。
だが、人モドキが消えるよりも早く魔法陣のようなモノが現れ、そこからゾロゾロと緑色の何かが押し出されていく。
人モドキの小さな生き物、緑色の体色をした人間の半分程度の大きさしかないソレは、ファンタジー物で御馴染みのゴブリンだ。
それぞれその小さな体に合わせた武器と盾を持ち、隊列を組んで怒涛の様に人間側へと押し掛かる。
数で優るゴブリン達だが、人間側は一振り一振り確実に数を減らそうとしてくる。
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机の上に置いてあるノートパソコン。
そのモニターには、三人の後ろ姿が映し出されていた。
「くそっ!!」
小さい悪態を付きながらも、右手に持つマウスは、画面右に並ぶアイコンを忙しなくクリックしていく。
その度、右上に表示されている課金と書かれている金色の数字がどんどん減っていく。
左手は画面下に表示されているチャット欄に文字を打っていく。
リズムよくカチャカチャと音を立ててキーボードを叩くと、チャット欄に青色の文章が打ち込まれていく。
『約束が違うぞ!!』…と。
ほんの十分前から繰り返されている行動だ。
それと同時に、携帯のメール機能を使ってメールも打つ。
そちらは宛先が個人名数人と『とある企業』名になっていた。
個人名の方には『助けを求める』内容で、一斉送信されていた。
少々文字化けしているが『今は非常事態だし』と自分の心を誤魔化す。
『はぁ…後でみんなに謝らないとな…』
そんな事を思いながらため息を付く。
数少ないゲーム仲間に迷惑をかけてしまった事が、心に重く伸し掛かる。