196話
そんな風変わりなエルフが出て行くと、リリーナは椅子から立ち上がり窓際へと歩いて行く。
窓から見える景色は真っ暗闇だ。
僅かな月明かりに照らされた街並みは、所々で小さな明かりが灯されている。
街の復興作業中のドワーフ達が集まつて出来た焚き火だ。
その数は大分減って来ている。
徐々に建物が出来始め、外での避難生活をする必要が無くなりだしたからだ。
「この地を…マスターの治めるこの地をお護りする為なら…」
いつもの彼女とは違う冷めた眼差しで、眼下の街を見下ろす。
彼女にとっては、獅子の獣人達がどうなろうと関係ない、ただユウキを護る、それだけだった。
もしもあの時、獅子の獣人達がユウキに従うなどと言っていれば、面倒だが、何かしらの策を持って始末しなければならない…とまで思っていた程だ。
その事は、エルザも承知の上だ。
エルザ自身は、絶対にグレゴルが従う筈も無いと、心の底から思っていた為、リリーナ程の気負いは無かった。
例え表面上従ったとしても、何れは反逆するだろう、ならばその時にでも始末を付ければ良い…そんな考えだった。
今回の獅子の獣人達に対する扱いにより、この浮遊大陸内部での反抗勢力は一気に縮小する事になるだろう。
グレゴルは現状、ある意味での反抗勢力の旗頭になり得る存在だった。
その筆頭が居なくなった現在、他の勢力をまとめ上げる者は居ない。
リリーナにとっては、考えうる中で最上の結果となった。
「後は、どうやってマスターを王へと導き上げるか」
外を見ながらそう呟くと、キュッと閉じた唇に指を当てて、自身の思考の奥へと潜り込む。
目指すべきは、ユウキを頂点とした浮遊大陸。
〜〜〜〜〜
獅子の獣人族による反乱騒ぎから五日が経った。
街中の混乱も完全に収まり、治安も回復している。
ドワーフ達やエルフ達の居住区も、かなりの数が復興している。
その際に聞いた話だが、実は獣人族達側の建物も、多少の被害があったらしい。
ただ、ドワーフ達の建屋よりも被害が少なかった為、報告が上がってなかったそうだ。
「いや、そう言う問題じゃないだろ?」
ユウキ用に設えた執務室で、書類片手にそう言うのだが、それを聞いたリリーナは「報告する程ではありませんでしたので」と一蹴。
その言葉に、ムッとした顔を向けるユウキ。
ユウキにしてみれば、被害にあった者達は、出来るだけ全員救済したいと思っている。
勿論、こんな事は偽善だと分かっているのだが…現実世界での政治状態を思い出せば、今の自分の立場なら多少の無茶も出来ると思っている。




