195話
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「以上で報告を終わります」
魔法の光で照らされた部屋の中、立派な机の前に立っていたエルフの青年の報告が終わる。
彼は、片手に持っていた書類を束ねると、机の上にあった黒いボックスへと入れる。
その報告を机の向こう側で聞いていた女性が、椅子の背もたれに体を預ける。
ギシッと小さな音が響くが、エルフの男性は微塵も動かない。
ただ眼の前の女性の反応を待っている。
「それで、生存していた女性の獣人達は?」
「始末しておきました。奴らの巣穴に持っていかれても困りますから」
少し間を置いて出された女性の質問に、サラリと答えるエルフの青年。
「死体は?」
「その場で奴らが食い散らかしてました」
「…そう」
そこまで聞いて、顎に手を当てて考え込む。
他の獣人達も、骨すら残さす食われたと言う情報に、その後どうするかを考える。
よくある話だが、ゴブリンは異種交配が出来る種族だ。
一応、彼らにも雌がいるのだが、魔境の森の中では圧倒的に数が少ない。
ゴブリンの雌は、生まれた瞬間の生存競争に負けやすいからだ。
ゴブリン種の全体で言うと、僅か十パーセント程度の生存率だ。
その為、この魔境の森では、互いのゴブリンが少ない食料だけではなく、雌の奪い合いも発生している。
負ければ雄は食われ、雌は新たな一族に連れ去られる世界。
まさに魔境の森と呼ぶに相応しい地獄だ。
そんな地に獣人の女性が現れればどうなるか…言うまでもない。
彼女達は、獅子の獣人達の妻として媚び諂った存在だったが、だからと言ってゴブリン共の苗床にしてやる義理も無い。
そう思っていたから『ある指示』を出していた。
彼女達がゴブリンに連れ去られそうになった時は、ひと思いに殺れと。
眼の前のエルフは、弓の名手で隠密技にも優れた人物だ。
その腕を見込まれて、魔境の森の監視者に選ばれている。
彼の役目は、極稀に魔境の森から出て来るゴブリンの掃討と、増え過ぎた際の間引き役だ。
ゴブリンに察知されない程の遠くから、精霊の力を借りての遠距離狙撃。
そんな彼は、今回魔境の森へと追放された獅子の獣人達の監視役を命じられていた。
途中で引き返したり、進路を変更しないよう見張る役だ。
結果的には、彼らはコチラの思惑通りに進み、ゴブリンの餌となってしまった。
そう指示を出した眼の前の女性、有翼族のリリーナは、報告に対しても眉一つ動かす事無く聞いていた。
リリーナにとっては、グレゴル達の生死などどうでも良かったと言う所だろう。
質問も終わると、エルフの男性に労いの言葉をかけ書類を渡す。
エルフの男性は、軽く頭を下げ部屋を出て行く。
彼はこれから倉庫に寄り、書類と引き換えに大量の食料を得るだろう。
それがリリーナに協力する見返りなのだから。




