190話
「終わった?」
無理やり着せられていた大きな鎧をドワーフ達に預け、リリーナの側へとやって来たユウキ。
戦闘が一瞬で片付いた為、どうにも危機感が無いらしい。
思わずクスッと笑ってしまうリリーナだったが、直に姿勢を正しユウキへと一礼する。
「はいマスター、我が領内の不穏な動きは全て潰しました。これで何の問題も無いでしょう」
そんなリリーナの姿に見惚れていたユウキだったが、ハッと気づくと直に首を振る。
『いかんいかん。今はそんな事してる場合じゃない』
「どうしましたマスター?」
顔を近付けてくるリリーナから逃げるように一歩下がったユウキ。
「い、いや、何でも無い!!それよりも撤収…えっと、撤収でいいの?」
あたふたしながらも指示を出そうとするユウキを見たリリーナは、微笑ましいとでもいうような顔を向ける。
実際、この後の事はエルザがまとめている。
この半分要塞化した村は、一旦更地にし、その後に兵の駐屯地にする予定だ。
そもそも、城の真後ろに当たる場所に不法な者達が住み着くなどあってはならない。
この場所に砦を築き、城の北側に繋がる橋を掛ける予定だ。
この橋は吊り橋方式にし、いざと言う時には切り落とせるようにする。
その辺りはドワーフ達に任せている。
彼らなら、コチラの予想以上の物を造ってくれる事だろう。
予算も素材もコチラから出すと言ってあるので、逆に不安感もあるのだが…。
城へと戻る準備をしていると、獣人の一部がユウキの方に向かって来る。
どうやら、彼らのまとめ役のような存在らしい。
「そこの人間族の小僧が指揮者…ひぃ?!」
ユウキへと話しかけて来た獣人、カバのような顔をした人物だが、話の途中で悲鳴を上げる。
まぁそうだろうな…っと思ったユウキは、自身の後ろに立つリリーナに「止めろ」と指示を出す。
凄まじい殺気を漲らせている事は、素人のユウキでも分かる。
まぁ、あの獅子の獣人達に従っていた者達だ、この程度の事はあり得る話だ。
どうやらこのカバの獣人達は、あの獅子の獣人達が来る前に、ここの村の支配者だった者達らしい。
その事で話があると近付いて来たのだろうが…いやはや、何と言うか…呆れる。
『自分達は元村長だ。この村に元から居た者達は、全員自分達のモだから指図は受けない』そうだ。
いや君達、あの獅子の獣人達に支配されてたんだろ?今更何言ってんの?
そう思っていたのだが、どうやら人間族、それも子供であるユウキがドワーフ達やエルフ達を顎で使っていた事で、『ちょっと脅せば自分達の権利を取り戻せる』と思ったらしい。
いや、何でさ?!何でそうなるんだよ?!
結局、元村長を名乗るカバの獣人と、その補佐を名乗る狼と猪豚の獣人は、獅子の獣人と同じく東側の森へと放逐されてしまった。
エルザ曰く、『文句があるならかかって来い』の一言で終わる話だった。
東側の門前で、必死に泣き喚いて慈悲を乞うていたが、アッサリと却下されていた。
やっぱ自身が前に出るのはよろしく無いのかな?と思うユウキだった。




