187話
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ユウキとリリーナが、後方の馬車近くで待機している姿を確認すると、エルザは足元に這いつくばっている獅子の獣人を見下ろす。
その獅子の獣人グレゴルは、痛む体を捻りながらも、顔を上げてエルザ睨みつける。
側に控えていたドワーフとエルフに、他の獣人への指示を出して追い払う。
別に何かある訳でもないが、数日前まで一般人だった彼らに、これ以上のプレッシャーは厳しいだろうとの配慮からの指示だ。
指示の仕方が荒っぽいのは自覚しているが、今更リリーナのように振る舞う事は無理だろうとため息を吐く。
なんだかんだと仲の悪い関係だが、同僚のリリーナの人当たりの良さ『だけ』は認めている…本人には絶対に言わないが。
そんな事を考えていると、睨み付けていたグレゴルが喚き出す。
やれ『卑怯』だの『殺す』だのやけに物騒な言葉ばかりだ。
『相棒を近寄らせなくて良かったって所々だねぇ〜』
この状況で、よくそんな言葉が出るものだと関心してしまうエルザだったが、自身の戦略通りに事が進んでくれてホッとしていた。
何しろ、ほんの少し訓練した程度の素人を連れての『進撃』だ。
下手な事で崩されれば、被害甚大になる。
正直に言うと、エルザ一人乗り込んで片付けられる案件だったのだが、リリーナから『良い機会なので、ドワーフ達とエルフ達の実戦経験の踏み台にしましょう』との提案に乗った結果だ。
リリーナ曰く、ドワーフ一人では勝てないだろうが、連携すれば問題無いとの考えだったらしい。
確かに、相対した感じ、このグレゴルであれば、手練のドワーフ一人と互角か少し上といった感じの強さだ。
素人ドワーフでも複数人いれば、多少の怪我程度で鎮圧出来ると考えれば、実戦経験を積むと言うのは、理に適っている…と思う。
ここまで急いでする必要があるのかと思う所だが、リリーナは逆の考えらしい。
『早めに戦力増強に務めるべきです』
そう答えたリリーナの顔は、何かしらの問題があるとは言っているようなものだ。
「まったく…もう少しノンビリしたい所なんだけどねぇ〜」
「貴様ぁ、聞いているのか!!俺様を誰だと思っておごぉー?!」
首を持ち上げていたグレゴルの顔に、ついつい蹴りを入れてしまった。
軽く蹴ったつもりだったが、思いの外良い所に入ったらしい。
一撃で気絶したグレゴルに、「しまった!!生きてる…よな?」っと駆け寄る。
首が変な方向に曲がっているが、息はしているし、首の骨も折れていない。
その辺りを確認すると「よし、生きてる」とホッとする。
いやはや、獅子の獣人族の生命力には関心する所だ。
これでコチラに友好的であれば、戦士として使えるのに…。
ついついそう思うエルザだった。




