184話
「コイツの事は分かっているよな?何のためにワタシ達の住む街に送って来たのかも。グレゴル、『お前なら分かる』よな?」
「ぐぬぅ」
エルザが、何やら訳知り顔で獣人族へと話し掛ける。
その言葉に獣人達、特に獅子の一族が反応する。
「「「「ぐるるるぁー!!」」」」
威嚇するように一斉に鳴き出す。
その声に動揺するドワーフ達だったが、同じように獅子以外の獣人達も動揺していた。
ドワーフ達は、僅かに盾が揺れ動くだけだったが、獣人達の方は、手に持った武器が激しく動く。
それを遠目に見たリリーナは、『なるほど、獅子の獣人達のみが詳しい事を知っていたのか』と、心の中で納得する。
彼らの後方に位置する獣人達の動きが、どう見ても鈍い。
「てめぇ、ブッ殺す!!」
そう大きく叫ぶと、グレゴルが弾丸のような勢いで飛び出してくる。
一歩遅れて他の獅子の獣人達も走り出す。
獅子の獣人達は、両手をダラリと垂らした状態で巨大な爪で地面に溝を作りながら、ドワーフ達へと突進してくる。
「盾構え!!踏ん張んなよ!!」
素早く指示を出すエルザの声に、前列に列ぶドワーフ達が、片足を後ろへと真っ直ぐに伸ばして地面を踏み締める。
そんな彼らへと近付いた獅子達が、ドワーフ達の目の間で、一斉に足元を蹴ってジャンプする。
二メートルを越える盾の壁をやすやすと飛び越え、二列目三列目のドワーフ達とエルフ達の間へと、獅子の獣人達が降り立とうとした瞬間、エルザの「弓放て!!」の声が響き渡る。
〜〜〜〜〜
グレゴルは、サイの獣人の姿を見た瞬間、自身の策が露見した事を悟っていた。
だからこそ、エルザが何やら話をしている間に、ドワーフの作る陣形の中へと突入して、一気に制圧。
そのまま城まで攻め込むつもりでいた。
数日前に発生した『謎の大地震』により、奴らの支配する城下町も城も大混乱している事は分かっていた。
更に情報集めをした結果、あの忌々しい十三人の将達も、たった二人しか見当たらないと言う。
その二人、エルザとリリーナと言う相手側の最大戦力が目の前に居るのだ。
これこそ千載一遇のチャンスだと思った。
だからこそ、この村に居る『他種族の奴隷共』に武器を持たせて、明日にでも攻め込むつもりでいた。
まさか攻め込む相手が目の前に来るとは思ってもみなかったが、だからこそ、ここで始末してしまえば良いと判断した。
自分達が動けば、周囲に潜んでいる仲間の獣人達も協力するとの約定は取り付けている。
なし崩し的とはいえ、この日の為に四年間も準備してきたんだ。
ここで一気に仕留めて城まで攻め込む。
そして、俺がこの浮遊大陸の真の王に!!
着地地点へと目線を向けた瞬間だった。
グレゴルの四肢に、無数の矢が刺さった。




