183話
さて、俺が声を掛けた事で、獣人族側の暴走を一瞬だが止める事が出来た。
うん、良かった良かった、思い止まってくれた…よね?
この鎧の中から見える風景だと、未だにジリジリと近付いてくる獣人族に、盾だけじゃなく武器まで構えたドワーフ達とエルフ達が見えるんだけど?
ねぇ、攻撃は待った、待てだよ待て!!
いや、この場合は待てかな?って、どっちでも良いんだよ!!
それよりも武器だよ武器!!
槍に斧、大槌に槍斧まであるのかよ!!
小柄なドワーフ達の倍の長さの武器を軽々と使いこなす様は、もう何て言うか…凄いの一言。
信じられるかい?こんな彼らが、数日前までは一般人だったんだぜ?
自身より巨大な武器を使いこなす一般人達とは一体…うごごごご。
などとボケてる場合じゃない、ここからは交渉の時間。
交渉内容は昨日の夜、三人で集まって話し合った。
まぁ、簡単に言うと…
『子供達の事を伝える→向こうが「そんな馬鹿な」と言った所で子供達登場→証拠はこの子達だ→それ見て「ぐぬぬ」ってる間に畳み掛ける→「今後は気を付けるやで」と注意を促す→親側が反論する前に撤収』
余計な事はしない。
コッチの目的は、盗むような事をしてはいけないよと教え込むだけだ。
ただ、この辺りの事を話し合っている間、リリーナの顔が難しそうだったのが謎だけど…はて、アレは何だったのだろう?
鎧の中で腕を組みながら、首を捻って考えていると、外からエルザの声が聞こえてくる。
内容が、ユウキの予想外で思わず「はぁ?!」っと声を出してしまったのだが…。
〜〜〜〜〜
鋭い目を向けてくる獣人達に対し、「ふん」と一つ鼻を鳴らすと、後方に居たドワーフに指示を出す。
最初から決めていたハンドサインをすると、二人のドワーフが、それぞれ何かを持ち出す。
「あん?アイツら、何やってやがんだ?」
先頭に居た獅子の獣人のグレゴルが目を細める。
周囲に居た者達も、何か仕掛けて来るのかと警戒し腰を落として構える。
そんな彼らの前に姿を表したのは、槍の石突部分に括り付けられている獣人の子供であった。
呆気に取られる彼らの前で、高々と掲げられた獣人の子供。
「おいグレゴル、この子供はお前の子だな?」
エルザの声が獣人族達へと響く。
大きく目を剥くグレゴルだったが、更に続く言葉と目の前の状況に牙を剥く。
自身の子供の他に、彼の世話役にと付けた奴隷の子供達だ。
別に奴隷の子供などどうもも思ってはいない。
単に『自分達の役に立たなかった』事に腹を立てていたが、それ以上のモノが見えた。
そこには、自身が送り出したはずの奇蹄族の男が、縄で縛られていたのだから。




