181話
睨み合う獣人族とユウキ達だが、獣人族側は、ジリジリと間合いを詰めるように、少しずつ陣形を変えていた。
別に、グレゴリが指示した訳では無い。
彼らの後方から、武装をし終えた者達が押し寄せて来る為、前へと押し出されているだけだ。
そんな様子を見ているエルザだが、そこに違和感を抱く。
『装備が行き届き過ぎているな』
最初に出揃った獣人達は、恐らく彼らの中でも腕の立つ者達ばかりなのだろう。
コチラで言うならば、急増で作ったドワーフやエルフの騎士達と同じような感覚だ。
そんな彼らの装備が整っているのは、まぁ理解出来る。
門番であり、攻められた際の盾でもあり、逆に攻める為の剣でもあるから。
しかし、それ以外の『如何にも一般人』と思える獣人達にまで、武具が行き渡っている。
よく見れば女子供まで、不揃いながらも装備している。
『これはやはり、爆発する一歩前だったかもしれない…な?』
「エルザ、気付いてますか?」
獣人側の動きを見ていたエルザのすぐ後ろに、いつの間にかリリーナが近付いていた。
その胸元には、ユウキが入った全身鎧がダラリと垂れ下がっている。
「アイツ等の装備の事か?」
「えぇ、やっぱり気付いているのね。流石は五将の長」
ニッコリと笑みを浮かべるリリーナを横目に、獣人側を視察する。
前列に並ぶ者達の内、獅子の一族が、明確な殺意をコチラに向けている。
その周囲に居る者達も、腰が引けているが、殺意を持っているようだ。
問題なのは中間から後方。
どう見ても、マトモに武器を振るった事もなさそうな様子。
「下手な事されて怪我人でも出たら面倒だな」
「自軍がですか?それとも」
「両方に決まってるだろ」
リリーナからの軽い口調に、忌々しげに返答するエルザ。
素人が振り回す武器ほど厄介なモノは無い。
ある程度武術を習った事のある者達であれば、太刀筋が分かり易い。
しかし、コレが完全素人だと問題だ。
予想もつかない行動から繰り出される攻撃は、時には達人にも手傷を負わせる事がある。
さすがに致命傷にまでなる事は無いと思いたいが…間違っても、守るべきユウキにもしもの事でもあればどうなる事か。
「あ〜間違いなく、有翼族が暴走する未来が見えるゼ」
今まで手の届かない位置に居たハズの相棒が、何故か子供の姿でリリーナの前に現れた。
…っとなれば、マスター至上主義のリリーナの忠誠心が、変な方向へ向かう可能性もある。
その変な忠誠心が、ユウキへの手傷に繋がればどうなるか…いやダメだ、大量の死体の山が想像出来る。
ジワジワと近付いてくる獣人達を前にして、イヤな汗が吹き出て来るエルザだった。




