180話
「てめぇ羽女ぁ!!ドワーフ共を引き連れて何しに来やがった!!言っておくが、俺達ぁてめぇらなんぞに尻尾なんぞ振らねえからなー!!」
『ドスン』と足音を立てて、地面を踏み締めると、大きな地響きが起こる。
足腰の力が凄いんだなぁ〜っと、的外れな事を思うユウキ。
「はぁ〜、いいですか野良猫野郎、貴方如きを住人とし引き入れるか検討したのは最初の一回のみ。それ以外は、この場所から出て行けと言っているだけですわ。そんな簡単な事さえ分かっていないのかしら?まぁ、野良猫野郎の頭では理解出来そうもありませんし」
自分の右頬に人差し指を当てると、首を斜めに傾けるリリーナ。
完全に態度が『馬鹿にしている』と分かる煽りだ。
この場所に到着してから同じようなやり取りばかりだ。
獅子の獣人が文句を付ければリリーナが嫌味で返す。
「はぁ…その辺にしておけグレゴリ、リリーナもだ」
そんな二人のやり取りに横槍を入れたのはエルザだった。
飽きれた口調でため息を付くと、双方の罵り合いを止める。
「この程度の煽り文句で一々突っかかるなグレゴリ」
エルザの言葉に『ぐうっ』と喉を鳴らせて黙るグレゴリと呼ばれた獅子の獣人。
体を半歩ずらして視線を後方に向けると
「お前もだリリーナ、余計な事を言うな。何の為にココに来たのか考えろ」
『くっ』と小さく呻くと、プイッとエルザから視線を外す。
〜〜〜〜〜
四年前、グレゴリ達がコチラへと攻め込んで来たあの時から、どうにもリリーナとの相性が悪い事は分かっていた。
ハッキリ言えば『最悪』だ。
エルザを含めた将が、出来るだけ穏便に済ませろと言い含めても、必ず最後には嫌味の応酬になってしまうのだ。
まぁ、リリーナが獅子の獣人と仲が悪いのはよく知っていた。
『原因はアイツなんだろうケド…』
エルザの同僚であり、後輩でもある獅子の獣人を思い出しながらも、何とか双方落ち着かせようと努力する。
エルザ自身、どちらかと言うと『怒鳴る』側だと認識しているのだが、この二人が相手だと、何故か『諫める』側になる。
『本来ならリリーナ、お前さんがやる役目だろうが』
額に手を当て、眉間にシワが寄るのを感じ、そのまま揉みしだく。
『さっさと終わらせて城に帰るか』
一つ咳払いをすると、視線を獣人族に戻す。
腕を組んでコチラを睨み付ける獅子が、鋭い視線をコチラに向けている。
『ここまで拗れる事が分かっていれば、あの時…コイツらが城下へと攻め込んで来た時に、さっさと始末しておくべきだったよ』
四年前、当時は他の獣人族を懐柔している最中だった為、彼らに対して強行姿勢を取る事が出来なかった。
コチラの動向を探る者達、中立の立場を叫ぶ者達からの信頼を得る為、強行な態度を取れなかったからだ。
だが今は違う。
コチラに従う獣人族に対して横暴な態度を取るグレゴリ達の一派は、彼らに友好的な獣人族達でさえ、目を背ける程悪質になっている。
『多少時間はかかったが丁度良い。潰すなら今だろう』
深い笑みを浮かべてグレゴリ達を見るエルザの思考は、既に敵に対して冷静に対処するモノと変わっていた。




