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176話


この魔導具だが、ゲーム内では存在しなかった。

いや、もしかしたら世界観を創る上での設定資料としてはあったのかもしれない。


当然ながら、魔導具を造るような職業も、ゲーム中には無い。

ここで言う『無い』は『プレイヤーが選択出来る職業』としての話だ。


では、NPC側はどうかと言うと、市井には『錬金術師』という職業が存在しているそうだ。

錬金術師がどんな職業かと言うと、この浮遊大陸での一般常識では、さっきも言った魔導具と呼ばれる代物を造っている。


灯りの魔導具に水を出す魔導具。

他にも風を出したり、料理にも使える魔導具が存在するらしい。


リリーナから聞いて思ったのは、それって『室内灯』に『蛇口』『扇風機』の事じゃねえかと。

料理に使っていると言う物に関しては、話の内容からおそらく『コンロ』だと思う。


我らが城には、これらは全て設置されているそうだ。

その他にも、色々あるとの話。


これは是非、場内視察もしなければ…と、心に誓うユウキだった。


さて、ユウキも聞いた事の無い錬金術師だが、多分コレ、その内ゲームのアプデで追加されるハズだったのではと予想。

それと言うのもこの錬金術師、薬草を使った薬も作っているそうだ。


腹痛から風邪薬まで色々と作り、生計を成している。

小さな村では、薬剤師として一人は必ず居るんだとか。


そこは回復薬を使えばいいんじゃないか?と思ったのだが、一般市民にとっては、回復薬なんて高価な代物らしい。

一番下位の回復薬で『銅貨十枚』程度の値段だが、これが錬金術師の調合で作られた薬であれば、『銅貨一〜二枚』程度になるそうだ。


確かに、この値段差であればしょうがない…かな?

ちなみに、何故こんなに値段差があるのかと言うと、薬の方が作成方法が簡単で効果が出るのに時間が掛かるからだそうだ。


回復薬は、森に生えている薬草に、魔力を混ぜて作った特別な液体を調合する事で作られている。

この魔力が、傷に対して即効性をもたらしてくれる。


確かに、プレイヤーからすれば、戦闘中の傷を癒すのに、時間の掛かる薬は使用しない。

逆に一般人であれば、命に関わる怪我でなければ、安い薬で十分だ。


その辺りが、プレイヤーの選択職業に錬金術師が無かった理由なのかも知れない。

しかし、自分プレイヤーの知らない職業があり、知らない技術もあるとなれば、それはそれで心躍る話だ。


「温泉街に錬金術か…うん、楽しみが増えたな」


思わずそう呟いたユウキをニッコリ笑って見るリリーナ。


「よしリリーナ、さっさと獣人族との話し合いを終わらせて城に戻るよ」

「はいマスター」


グッとコブシを握るユウキの姿を見ていた面々が、微笑ましい顔を向けていた。

このまま平和的に進める…そう思っていたのだが………






一時間後ユウキ達一行は、武装した獣人族と、正面からの睨み合いをしていた。


「いや、何でさ?!」


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