16話
『あぁ、マスター』
先程からコロコロと表情を変えるユウキの姿を見るリリーナは、心の中で悶えていた。
空中庭園から通路に出ると不安な顔になり、通路を見て驚き顔になり、中庭を見て更に驚き顔となり、今では感動したかのような顔を見せている。
その姿を見て、思わず体をクネらせてしまいそうになるが、そんな醜態は悟られまいと全体に力を込めて我慢する。
リリーナ本人は気付いていないが、背中の羽がワサワサと盛大に揺れていた。
そもそもリリーナにとってユウキは、心身共に仕えるべき主だと思っている。
アルテミア大陸で初めて会った日から今日まで、沢山の冒険を共にして来た。
ユウキの方にしてみれば、最初に作ったNPCだったのだが…この時点では、お互いの認識のズレには気付いていなかった。
アルテミア大陸に現れた異界の人々、リリーナ達アルテミア大陸に住む者達から見て、彼らは巨大な力を秘めた人々だった。
彼らの事をアルテミア大陸に住む人達は『異邦人』と呼んでいた。
ある日フラリと現れたかと思うと、またたく間に強くなっていく人々。
強い者はアルテミア大陸にもそれなりに存在している、しかし、そんな彼らに僅か数年で追い付けるような者達がいるとは、それまでは思われていなかった。
実際、ユウキの側から見れば、ゲーム内の主要NPCキャラ達が強力なのは当たり前だ。
プレイヤーはゲーム内に存在するNPCに手出し出来ないと言うのが暗黙のルールとなっている。
勿論、戦おうとする事は出来るが、当然勝てない仕様になっている。
主要王国を治めるNPC側の王などは、それこそ伝説級の武器や防具を装備している。
そもそも、キング·オブ·キングオンラインと言うゲームとしてNPCキャラ達は、プレイヤー達に色々と依頼したり、または協力要請したりする存在だ。
そんな存在に攻撃をして、場合によっては死亡させるなどすれば物語は進まなくなるし、関連するクエストも受けられなくなる、当然の事だ。
とは言え、それらの事情は『ゲーム』という括りの中の話、つまりは物語だ。
しかし、リリーナのような実際その『ゲームの中の世界』で暮らす人々にすれば、ユウキ達異邦人と呼ばれる者達のいる世界こそが物語になる。
そう、ゲームの中のNPC達は生きている。
その世界で息づいている。
無口な異邦人達が世界を駆け巡り、様々な出来事を起こす。
強靭なモンスターを倒し、国を起こし、互いに争い、時には協力する。
そんな中出会ったユウキは、争いとは無関係な存在だった。
日々、街の外に出て行くと、大量の鉱石を持ち帰り、ドワーフのお店で精錬してもらうと自分で武器や防具を作る、そんな毎日を送っていた。
他の異邦人達が『何々なモンスターを討伐した』とか『何処何処のダンジョンを制覇した』と言われる中でも、彼だけは同じ日々を過ごしていた。
暫くすると武具の製造を覚えたらしく、街の広場で武器や防具の販売をする姿が見られるようになった。
武具だけではない、ポーション等も販売されるようになった。
街中でも珍しい『有翼族』と呼ばれるリリーナが、いつの間にかユウキの仲間になり共に冒険に出ていた。
リリーナ本人も『どうしてそうなったのか』覚えていないが、それから長い日々を共に過ごしていた。
そう、幸せの日々だった。
あの日、22名の異邦人が攻めてくるまでは。




