12話
「えっと…」
目の前で腕を組み悩む彼女リリーナは、自身のキャラのサポート役として、ゲーム内では一番多く連れ歩いたNPCだ。
自分のキャラが完全生産職の為戦闘に向かず、彼女には戦闘兼回復役としての戦士系上位職の一つ『ヴァルキリー』を選んだ。
このヴァルキリーと言うのは、女性の戦士系のみが慣れる職業だ。
特にリリーナの種族である『有翼族』にはピッタリの職業だ。
有翼族は女性キャラしか作る事が出来ず、更にプレイヤーが選べない種族、謂わばNPC専用種族となっている。
その理由として、初期能力値の高さがある。
〜〜〜〜〜
このキング·オブ·キングオンラインでは、プレイヤーが選べる種族は五種類がある。
力と体力が自慢の『ドワーフ族』、魔力と知力の高い『エルフ族』、全体的能力値は平凡だが素早さだけは一番高い『獣人族』、平均的な能力で突出した部分の無い『人間族』、その人間族の能力値を少しだけ高くした『魔族』の五種族だ。
その能力が示す通り、それぞれに得意な職業が存在する。
ドワーフ族は戦士系や、エルフ族は魔法使い系、獣人族は弓使いや盗賊系、そして全ての職業に適応する人間族と魔族。
有翼族は追加種族としてアプデ後に実装されるハズだったのだが、ここにもクレームを付けるプレイヤーが続出した。
それと言うのも後発組用の種族設定の為、どうしても初期能力値や成長率が最初から高くなっていたからだ。
このゲーム、レベルの差が一つや二つならそれ程でも無いが、十も離れるとかなり厄介になる。
それをカバーするのが能力値と強力な武器、大勢の仲間による数での力だ。
ところが、この追加種族は初期能力の高さもレベルアップ時の成長率も高い為、低レベルでもそれらの不利を簡単に踏み潰してしまいかねないバランスブレイカーとなっていた。
結局、導入一週間後には追加種族は全て無かった事にされ、再びネットで叩かれる原因となった。
ちなみに、この一週間で有翼族を選択したプレイヤーには、他種族への強制変更イベが発生したとか何とか…。
高レベルプレイヤーや古参プレイヤーの言い分も分からない訳では無いのだが、新規プレイヤーが参加し辛い状況も無視出来ない問題となっていた。
そんな理由からNPC専用種族になった有翼族だが、ユウキは直ぐにアイテムを使ってNPC作製に入った。
NPC作製アイテムは、最初に必ず一個は支給される事になっている。
勿論、創らないプレイヤーにも支給されるが、創る創らないは各自の判断になる。
創らなくても問題は無いのだが、ここでも一部のエンジョイ勢とガチ勢の争いが発生していた。
エンジョイ勢を『キモい』だの何だのとネットで批判していたガチ勢の一人が、NPCキャラを創って街中を歩いていたのが見られてしまったのだった。
しかもその人物は、一番煽り散らかしていた目立つ人物だった事から、某掲示板を中心に騒ぎとなった。
本人は『運営が無理矢理押し付けたアイテムを使っただけ』と言い放った為、自身の味方であったハズのガチ勢からも攻撃されてしまっていた。
結局、張本人がNPCを削除し、その画像をネットに上げる事で鎮火したが、周囲の反応は悪くなったままだったとか…。
その後、この件が発端となり、ガチ勢が手に入れたNPC作製アイテムが、ゲーム内の市場に大量流出する事となる。
ゲーム内では、プレイヤー同士による売買が出来る場所があり、そこに低価格で出回っていた。
それもまた炎上する事があった。
ガチ勢がこのアイテムを販売する際の値段が途轍もなく高価だった事から『おいおい○○○、NPCなんていらないって言ったのに、それで儲けようとしてるの?』と言った煽り文句を受け、それこそ投げ売り状態で販売されまくる事となった。
さすがにコレには、エンジョイ勢も『言い過ぎだ』『そこまで言わなくても』と苦言を呈したが、逆にガチ勢側がムキになり、低価格でアイテムが売りに出される事となった。
まあ、その恩恵で、最終的には十四個ものNPC作製アイテムを購入する事が出来たのだが…。
そんなゴタゴタな中でも最初に作製した彼女は、低レベルであったユウキのキャラのサポートとして、数多くの活躍をしてくれていた。
ただ、問題点を上げるとしたら、戦闘職であるハズのヴァルキリーを鉱石採取まで出来る様にとスキルを取ってしまい、結果的にある程度、何でも出来る『中途半端』なキャラにしてしまったと言う事になる。




