114話
〜〜〜〜〜
この異世界に来て六日目の朝、眠気眼のユウキは一人、大きなベッドの上に胡座をかいて座っていた。
猫背になりながらもボーっとするその姿は、とても元二十代後半の男性には見えなかった。
「…腹減った」
右手で頭をボリボリと音を立てて掻きながらも、左手は『ぐるる』と音を立てる腹へと向ける。
それと同時に部屋の扉が『ドン』と大きな音を立てて開く。
「よう相棒、朝飯持って来たぜ」
大きな声で部屋に入って来たのは、南斗の五将が一人、エルザだ。
彼女は、両手にトレイを持ちながら歩いてくる。
そのトレイの上には、ホカホカと湯気を上げるカップに平皿に乗せられたパンにサラダと、喫茶店で出そうな朝食セットがあった。
だが、そんな美味しそうな代物よりも気になる事がいくつか…。
一つ目は扉、エルザの入ってきた扉は観音開き開きだったが、その扉は今、内側に全開され、更に片側の蝶番が根本の金具ごと外れて傾いている。
何をしたかは分かっている…両手が塞がっていたエルザが、右足の蹴りで扉を開いたからだ…いや、この場合ぶち破ったと言うべきか?
二つ目はエルザの後ろ、もう一人の人物が、こめかみに青筋を立てながら笑顔で入って来た事。
エルザと同僚であり、この浮遊大陸の責任者でもあるリリーナが入って来たのだった。
ただし、その目線はエルザの後頭部にロックオンしていたのだが…彼女も片手にトレイを持ち、エルザに続いて部屋に入ってくる…ハッキリ言って怖い。
そして三つ目はその料理、エルザの持つ料理の片方は普通サイズ、ごく一般的な喫茶店レベルの量だが、もう片方がオカシイ。
ユウキの位置からは、斜め上へに料理を見上げている為、普通サイズの方の料理は、丸いパンの頭部分がチラチラと見えるたけだ。
下手すると、サラダはトレイに隠れて見えない。
なのに、もう片方はと言うと、普通サイズのパンが二段に積み重なり、下からハッキリと形か見えている程だ。
サラダの方は、少し多めの野菜が見えるが、その傍らに添えている目玉焼きが三枚積み重ねられている。
よく黄身が潰れないものだ…と、何ら関係無い所で関心してしまう。
唯一スープだけは、同じカップ大きさのだったので、そこだけは安心。
…『っと思ってた時期がありました』と、そんな台詞が出てきてしまう。
テーブルの上に置かれたトレイには、スープのカップが三つもあった。
まさかの三杯…いや三倍?三杯でも間違っていない所がアレだったが…。
勿論、この量が多い方を食べるのはエルザだ。
本人曰く『有角族は大食いだから』と言っていたが、きっとエルザだからだろう…うん。
色々大きい…ゲフンゲフン、兎に角、朝から食事の準備を見ているたけでお腹一杯になりそうだ。




