112話
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同時刻、キケロ都市国家同盟の港町バレシオスのから出発した最新式の高速船は、目の前に広がる巨大な島に、その足を止めていた。
五日前、彼ら船員の雇い主であるバレシオスから『北西に向かって進める所まで行け』と言われた時は、さてどうしたものかと途方に暮れたものだったが、目の前の光景を前にすれば、自分達の雇い主の慧眼に恐れ慄くばかりだ。
他の二国、この場合『北の帝国』と『東の神聖王国』になるが、彼らよりも早く行動出来た事は、南方の大勢力たる都市国家同盟にとっては、かなり有利な事となった。
その証拠に、目の前に広がる巨大な島を発見出来たのだから…っと、彼らは思っていた。
この世界では、新たな島などを発見した場合、誰よりも早く世界に向けて領土主張すれば、その国の物になるという、何とも原始的なルールがある。
とは言うものの、その主張を通せるだけの武力を持たなければ意味は無いのだが…。
目の前に広がる島、その情報を国に持ち帰るだけで、発見者である彼らは、莫大な金を得る事が出来る。
バレシオスから今回の出港を命じられた船長は、さてどうしたものかと考える。
今いる海域は、本来の船乗りであれば通らない海域だ。
何しろ、自分達の拠点から北に五日も進んた場所なのだから。
夜間、星の位置から現在位置を把握していたが、それでもこの沖合では、ちょっとのミスで大陸への帰り方が分からなくなってしまう。
そうなれば、折角のこの大発見も水の泡だ。
「だ、ダモン船長、どうしやす?」
仲間の船員が、半分興奮した口調で聞いてくる。
それはそうだろう、目の前には大金になる島が存在しているのだから。
だが、現状問題なのは…
「食料の残りはいくらだ?」
「へ、へい、後六日から七日程って所でさぁ」
船員の言葉に暫し考え込む。
残りの食料が七日…いや、塁六日で計算した場合、帰りの分を考えてもギリギリだ。
「ノエ、前方に見えている島まで後どのくらいだ?」
「はい船長、えっと…」
ノエと呼ばれた十代後半の気の弱そうな青年が、天測機と呼ばれる機械を取り出し現在位置を割り出す。
それと同時に、島までの大凡の距離を測ると、手に持った紙へと色々書き込みだす。
「現在位置は、バレシオスの港町から北北西に二千五百。あの島までの予測距離は約三千という所です」
ノエのその言葉に、ダモン船長は顔を顰める。
この高速船で、ここまで運良く北風を受けて走行してきたが、それでもかなりの時間を費やした。
なのに目標の島まで、今までと同じだけの時間が掛かってしまう事になる。
勿論、ノエと呼ばれた青年の計算が合っていればの話だが…。




