111話
王の命令により、二隻の私掠船への長期出港準備をしていた所に、神殿騎士団が数名の神官を連れてやってきたのだった。
本人達曰く「西の海に落下した物を調べるように、神のお告げがあった」らしい。
お告げと言われても、西方聖騎士団にしてみれば「はあ、そうですか、では頑張って」と言うしかなかったのだが、何故か彼らは『自分達の命に従って船を出せ』と言ってきたのだった。
さすがに王の命令で動いている騎士団、それも上位である聖騎士団が、私兵である神殿騎士団に従う謂れは無い。
当然、騎士団長であるテレンスは、『出来る限り穏便に』断った…ハズだった。
それから一日が立って、彼ら神殿側から『王からの命令書』を持って来た。
命令書曰く、『彼ら神殿側と協力するべし』と書いてあったのだが、見ての通り、彼らは船員にまで居丈高に接している。
結果、気性の荒い海の男達によって日夜拳による話し合い(殴り合い)へと発展するのだった。
そして、その後は船への積み込みが遅れ、さらに出港まで遅れるという悪循環に。
そんな事を命令書が届いてから毎日続けているのだった。
「これではいつまでたっても出発出来ん」
天を見上げながらため息を吐くテレンス。
神官達も、テレンスの元に押し掛けては『出港はいつなのか?』と聞くのだが、その度に思う。
『早く出港したいのなら大人しくしていろ』
そう大声で叫びたかった…そんな元気も無いが。
そうやって、空を眺めながらもボンヤリするテレンスの横で、副官見習いのウィリアムは、なかなか反応しないテレンスから目標を変更した神官達の相手をさせられていた。
「いえ、ですから、まずは十分な食料と水を搭載してから」
「それは何時までに終わるんだ?」
「こっちも早く行かねばならんのだ!!」
「もう、今積み込んだ分で出港すればよいではないか」
「大体、食料如きで何日かけるつもりか?」
「いえ、ですから」
このやり取りだけでも、既に何回もやっていた。
その度に、懇切丁寧に説明しているのだが、彼ら神官達は『早くしろ』『いつまでかかってる』の一点張りだ。
性格的に温厚なウィリアムでも、怒りで怒鳴り散らしたくなる程だ。
そんな事をしてる間に、桟橋方面では海の男と神殿騎士の若者が殴り合いを始めていた。
お互い、武器は後ろに投げ捨てている辺り、それなりに理性は残っている…らしい?
そんな二人の戦いに、積み込み作業をしていた男達や港町の住人等が集まり囃し立てている。
「あ〜、今日の作業はここまでで終了だな」
そうテレンスが呟いた瞬間、かなり良いパンチが神殿騎士の若者の顔面に炸裂。
結果、この日も海の男に殴られ気絶した神殿騎士を神官達が抱えて行き、積荷の搭載作業も終了となった。
はたして、彼らは何時出港出来るのか。




