10話
「なんでだよぉ〜」
出た言葉は弱々しかった。
それはそうだろう、これではまるで『少し前に流行った異世界転生』ってヤツじゃないかと。
いや、死んだ記憶が無いって事は『異世界転移』か?と、どうでも良い事が脳内をグルグルと回る。
直前の記憶はゲームをやっていた、それは間違いがない。
半年前に知り合った新人が、仲間を連れて攻めて来たのだから。
本人達は、別の人を攻めるのに練習がしたいなどと言っていたが…まぁ、あれは嘘だったんだと今なら分かる、騙されたんだと。
「ははっ、そんな単純な嘘に騙されるなんて…まぁ、それは自業自得か」
乾いた笑いをすると、今度は自分の事を見る。
目覚めた時から違和感があったから。
先ずは視線の高さ、俺自身の実際の身長は百七十を超えていたハズだが、どう見ても今の目線はそれ以下だ。
目の前にある手摺、この宙に浮く庭園の周囲に設置されている落下防止用だと思う物だが、それが俺の首辺りに来ている。
「この手摺の高さって一メートル位かな?」
本来の手摺の高さがどれ程かは知らないが、一メートル位はあるものだと思っている。
そこから考えると、今の自分の身長は百三十から四十センチ位じゃないかと思っていた。
「何で縮んでんだよ?!俺の身長何処いった?ってか、異世界転生なら自分のアバター姿になるもんじゃないのか?いや、転生じゃなくて転移だったとしても、この場合は俺の二十七歳の体じゃないのか?」
自分の体を見下ろしながらついつい文句を言ってしまう。
そう、この手の話であれば、自分の使ってたアバター姿にくらいはなるモノだと思っていた。
悪魔を仲間にして召喚させ戦わせる某ゲームに登場する脇役、悪魔合体させる顔色の悪い船長をアバターにしてたのに、その姿の破片も無いとは…しかも、どう見ても子供になっている。
手も足もやけに細い。
顎下に手を当てるが、剃るのが面倒と放置していた髭のジョリジョリした感覚がまったく無い。
仕事の忙しさに不摂生で重たく感じていた体もやけに軽い。
『いやいやそんな』と否定したい自分を突き落とすのが服装だ。
「…ジャージだコレ!!」
紺色の上下に紫のラインが入っており、左胸には丸の中に大竹の文字。
「大竹小の時のジャージだよコレ、しかも線の色が紫って事は、小学二年生だぁ〜」
彼、ユウキの通っていた大竹小学校では各学年事にジャージでの色分けがされていた。
一年生は白、三年生は青と言う様に、見た目で分かり易くなっており、二年生は紫だった。
つまり、今の彼は小学二年生の頃のユウキとなるのだった。
「逆行?コレって逆行転生…いや転移ってヤツ?なのにゲームの世界?訳が分からないよぉ〜!!」
その場でガックリと膝と両手を地面に付け項垂れる。
別に転生とか転生に不満がある訳では無い…のだが、ならば何故『子供姿』なのかと言いたい。
「見た目は子供的な世界は求めていないんだよ俺はぁ〜」
項垂れたまま呟く彼の背後に足音が近付いてくる。
「あの…大丈夫ですか?」
少し心配そうなその掛け声にピクリと肩が跳ねてしまうが、いつまで現実逃避している場合でも無い。
近付いてきた彼女が自分の知っている女性であれば、ゲームの中で『自分が作り出した存在』であれば…。
「…リリーナ?」
恐る恐る声を掛ける。
リリーナ·ドゥーベ、それが彼女に付けたゲーム内での名だ。
自分の中で作った設定、その設定通りであれば、彼女の名は北斗七星を司るアルファ星の固有名『ドゥーベ』から取っている。
先程のリリーナと言うのは、彼女を設定する際、最初に思い付いた名だった。
それを合体させた名がリリーナ·ドゥーベだ。
まぁ、名字をアルファとするかドゥーベにするかで十分程悩んだりもしたが、逆に北斗七星から取った名(この場合『名字』と言うべきか?)繋がりで他のキャラを作る事が出来た。
「はいマスター」
それはそれは嬉しそうな笑顔で返事を返してくれた彼女。
彼女は『キング·オブ·キングオンライン』で最初に作ったNPCの一人であった。




