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108話

〜〜〜〜〜

浮遊大陸が、この魔力の無い世界に出現して五日が経過した。

まだ春先の大海原を一隻の船が走っていた。


この世界の船としては珍しい三角帆を二本上げ、細い船体が白い波後を付けながら西へ西へと進んでいる。

時折、中央付近に立つ人物が、太陽の位置を確認するような仕草をしながらも、その船は順調に進んでいた…その時までは。


「な、なんだあれは?!」


最初にソレを見つけたのは、帆の上に設置された直径一メートル程度しか無い見張り台の上に居た人物だ。

日に焼けた肌の上には大量の汗が流れ出しているが、それすらも気にならないと言うように視線を遠くに向ける。


遠くまで見通せる彼の視力の先には、巨大な島が見えていた。

まだ相当距離があるせいか、見えたのはほんの一部だが、それだけでも十分だった。


「進行方向左、遠目、島が見える。巨大だ。漁民共の言った通りデカい!!」


見張り台から下へ向かって大声を発する。

その言葉を聞いた船員達が、船の左側に集まりだし、グラリと船体が傾く。


「貴様ら、副長以外全員持ち場に戻れ!!この最新鋭艦を横転させたいのか!!」


背が高い、ヒョロリとした人物が集まっていた船員を怒鳴りつける。

それぞれが持ち場に戻るが、チラチラと左側に視線を向けている。


その気持ちが分からないでも無いが、この帝国最新鋭の高速船を沈める訳にもいかない。

そのヒョロリとした男性は、近くに寄って来た副長と呼ばれた人物に目を向ける。


五十代と思われる副長は、厳しい視線を左側、遠くに見え隠れする島へと向けながら口を開く。


「あの漁民達の訴えどおりでしたな。それでどうします若君、上陸を目指しますか?」

「若君は止めろ、もうそんな年では無い」


副長の言葉に苦笑いを向ける男性だったが、そんな彼に副長はニカッと笑顔を向ける。


「私にとっては、いつまでたってもアガーフォン様は若君ですよ」

「勘弁してくれボリス」


アガーフォンと呼ばれた三十代の人物は、頭を掻きながらも視線を島へと向ける。

まだ遠い為、うっすらと島の形が見えるくらいだが、それでもその大きさが分かる。


「この距離で一部が見える程の大きさだ。今の船員の数では、上陸後の不測の事態に対応しきれん。それでは皇帝陛下に顔向けも出来んからな」


アガーフォンの乗るこの船は、帝国海軍が最近開発した最新の高速船だ。

強行偵察や強襲等を目的とした船であったが、積載量の関係で長期間行動が出来ない欠点がある。


そんな船で帝国領から海に出た理由は、近くの漁民からの訴えからだった。

曰く「南の海に、巨体な島が落ちて来た」だ。



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