107話
「あ〜相棒、そこまで心配する程じゃねぇって。被害はあったって言うけどそこまでヒドい訳じゃねぇんだからよ、な?」
小学生程の男の子が死にそうな顔をしていれば、いくら剛毅な有角族のエルザでも、何とか励まそうと必死になるが、そんな事をした経験も無いからか、とんちんかんな事を言ってしまう。
今の彼女見れば、目はグルグルと渦でも巻いている事だろう。
ある意味、テンパっていたエルザに救いの手を差し伸べたのはリリーナだった、その方法を我慢してれば…だが。
ガックリと肩を落とすユウキに近付くと、そっとその体を引き寄せて軽く抱き締めるリリーナ。
いきなりの事で驚いた顔をするユウキを抱き締めながら、優しい声音で語りかける。
そのリリーナの後ろでは、「てめぇ、抜け駆けすんなぁ!!」と叫ぶエルザの姿があったが…。
「大丈夫、大丈夫ですよマスター。今回の火災での死亡者は一人もいませんから」
「えっ?」
リリーナのその言葉に驚くユウキ。
実際の被害状況を聞く限り、多数の死者が出てもおかしくはない。
なのに、一人の死者がいないなんて…そう思っていると
「頑丈なドワーフが、あの程度て怪我をするハズありませんから」
「あ、はい」
よく分からない理論を出されたユウキは、ただただ「はい」と返事をするしかなかった。
頭の中では『頑丈だから何?』『ドワーフって何?』と、疑問符だらけになっていたが…。
「えっと…もしかして信じてません?」
「い、いや、そんな訳じゃないんだけど…地震ってか、あれだけの衝撃と火災って言うから、怪我人ぐらいは出てるかなぁ〜って思って…その」
リリーナに抱きかかえられながらも、しどろもどろに喋るユウキだったが、素直に自分の考えを話す。
そんなユウキを菩薩のような笑顔で見るリリーナだったが、本人の心の中では…『あぁ〜マスターカワイイ』だった。
「いい加減離れろ!!」
『ごん』と言う音と共にエルザの叫び声が部屋に響く。
軽い衝撃の後、リリーナに抱えられていたユウキの体がベッドの上に落ちる。
ユウキに笑顔を向けていたリリーナが、ゆっくりと後ろを振り返る。
リリーナの顔が見えなくなったが、声音から怒っているんだなと予想するユウキ。
ズリズリとベッドの上を移動しながら、二人から離れる。
そこから後の話だが…リリーナとエルザ、互いに睨み合いから始まり「なんのつもりかしら?」「あぁ?何だ、言わなきゃ分からねえのか?」っと言う口論からの殴り合いに発展したのだが、余りにも悲惨だったので見ない振りをするユウキだった。
ちなみに、口論を始めた次点で、シーツを腰に巻きながら、部屋の隅にあるソファーで丸まって寝ていたりする。
『女性の喧嘩には関わっちゃいけねぇって爺さんが言ってたし』
ユウキ、戦略的撤退。




