106話
火災の原因も既に分かっていた。
ドワーフ達が設置していた製鉄用の竈だ。
それと言うのも、この大通りにある建物は、全て武器·防具·アクセサリー類·ポーション類の作製をする工房だからだ。
特に西側、ドワーフ達の建物は、大型で高火力の竈を設置している工房が多く、その上一日中火を絶やす事無く稼働させていた。
この日も、浮遊大陸が何処ぞと知れない空に来たと言っても、大手の工房は『いつも通り』に動いていた。
職人のドワーフ達は、日の出と共に動き出し、鉄の製錬を始めていた。
どんな時でも、どんな所でも関係無く、自身の役割は剣を鎧を造る事だと彼らは思っていた。
そんないつもの光景が、いきなり変わってしまう。
突然、地面が『グラリ』と音を立てて揺れたかと思うと、ひと呼吸置いて傾いた。
その後の工房は地獄だった。
地面が傾いた事によりドワーフ達は立っていられず、床をゴロゴロと転がって行く。
時折並行になるが直ぐに傾き、まともに立つ事も出来ない。
そんな不安定な状態で、火を入れた竈が無事な訳でも無く、数少なくない可燃物に引火し大火事になる。
ドワーフ達の建物が、いくら石で出来ているとは言え、多少の木材も使っている。
家の四隅を支える柱部分や天井や屋根部分を支える梁、窓枠や玄関扉など色々とある。
それらに炉の火が燃え移り、徐々に小火が大火事へとなっていったのだった。
浮遊大陸落下中であっても、何とか火を消そうと頑張っていたが、それも海への落下による大激震により、建物自身が崩れる災害へと発展。
消火作業をしていたドワーフ達を瓦礫の下敷きにしてしまった。
慌てて救助作業に変更したが、その間に消火しきれなかった火が燃え広がり、何と対面のエルフ達の建物へと燃え移ってしまった。
エルフ達の建物は、落下中の振動でも、多少の被害が出ただけで済んでいたのだが、家が木造だった為、ドワーフ側からの飛び火が一気に広がり、大火災へと発展してしまったのだった。
そこまでの説明を受けて、ユウキの顔色は真っ青を通り越して真っ白になってしまう。
リリーナの話をまとめると、ドワーフ族とエルフ族の建物がほぼ全て燃えてしまった事になる。
唯一残った建物が、両種族以外が住んでいる地区の建物だけだったらしい。
それでも大半が半壊状態らしいが…。
「俺が…浮遊大陸を落としたせいで…みんなの家が…どうしよう」
そう呟くユウキの姿に、リリーナはオロオロし、エルザは不思議そうな顔をしている。




