9話
「海…だけど、やけに狭い…ってか、途中で切れてる様な感じか?」
遠くに見える海を見ていたが、その見た目に違和感を感じる。
記憶にある瀬戸内海の海であれば、これだけの距離と今居る高さであれば、かなり遠くまで見渡せるはず。
その感覚で言えば、この距離なら対面の陸地が僅かでも見えて良いハズだし、太平洋のような外海なら水平線の彼方が見える的な光景のハズだ。
それなのに、対面の島の影も形も見えない処な、水平線の途中で海がバッサリと切れて無くたっている様に見える。
「いや、まさか…ね」
「…」
それとは別に、さっきから後ろの方からの視線が気になる。
あの女性…見た目が妻に似ている彼女が、ジッとコチラを見ているのが分かる。
こう、なんて言うか…視線の熱量とでも言うんだろうか?一挙手一投足に注意が向けられているって感じだ。
「しかも、やけに笑顔だし」
チラリと後ろを見れば、ニコニコと擬音が聞こえて来そうな笑顔が自分に向けられている。
「はぁ〜」
一つため息を付くと、視線を目の前の景色に戻す。
北側は見たから、今度はそのまま時計回りにグルリと見渡していく。
北から東側にある山が自分の居る場所を覆う様に連なっている。
その山々の連なっている間、少し低くなっている所から見える向こうの景色は、広大な森が見えている。
北側には山と森と海、東側は山々と森、そのまま右、南側と顔を向けると、そこには街が見えて来た。
現代的な街では無く、木と石造りの街だ。
自分の居る建物から真っ直ぐ南に伸びていく大きな道。
石畳の道を中心に、左右に独特の建物が並んでいる。
「ファンタジー世界だ…」
よくある物語に出て来そうな建物…っと言って良いのか分からないが、土台は石を組み上げた造りだが、その上に木が建物の形に変形している様な不思議な感じになっている。
屋根部分に木の葉が覆い茂り、今居る場所から見える建物の形だと、屋根が木の葉で幹が建物の様に見えてしまうのだが、一体アレはどうなっているのか?不思議と言うよりも不可思議とでも言えそうな建物が、石畳の道の片側に建っている。
道を挟んだ反対側には、これまた真逆の造りをした建物が並んでいる。
土台は同じだが、その上に建っている建物が違う。
石を組み上げた土台の上に、少し色の違う石が、上へ上へと組み上げられている。
片方を木が変形して家になったと言えば、コチラは石が積み上がって出来た家とでも言うべきだろうか。
一応窓もあり、窓枠や建物の四方を支える柱、それぞれを繋げる様な梁等は木製だ。
どちらにも言える事は『自分の知る家とは造りが違う』と言う事だ。
そんな建物を ただただ呆然と見る事しか出来ていなかった。
何しろ『自分は、この不思議な造りの街並みを見た事がある』からだ。
ただしそれはモニター上の事だが…
そう、ゲーム『キング·オブ·キングオンライン』の中での事だ。
あの中央にある大通りを真っ直ぐに歩くと次のマップへと移動する見えない壁が現れる、ゲーム内での話だが…。
次のマップも、同じ造りの街並みとなっており、その先に港がある。
その港に停泊してある船の前で船員に話しかけると、色々な場所へと移動する為の移動先が表示される。
領地内の他の港だったり、外に出る為の城門前だったりと色々だ。
とは言え、使用したのは初期の話だ。
途中から各拠点や城門前、マップ上でマーキングしてある場所へとひとっ飛び出来るゲートが出来ると歩く事は無くなり、城の中から直接向かう様になった。
それでも初期にこの街を隅々まで歩いた記憶は今でもある。
だから分かる。
ココは『キング·オブ·キングオンライン』で自分の領地だった『浮遊大陸』だと言う事が。




