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第九十六話 高橋悠里は憧れの先輩と昼ご飯を食べる

要が一階の自販機で飲み物を買ってきてくれたので、悠里は練習をやめてサックスをストラップから外し、机の上に置く。


「オレンジジュースにしたけど、大丈夫だった?」


「はいっ。オレンジジュース好きです」


「よかった」


要は悠里にオレンジジュースを差し出して微笑んだ。

悠里はお礼を言って、オレンジジュースを受け取った。マスク無しの要の笑顔を正面から見つめて、ときめく。顔が熱い。


「あっ。窓、窓を開け忘れてましたね……っ」


顔が赤くなったことが恥ずかしくて、悠里は受け取ったオレンジジュースを机に置き、慌てて窓を開けた。

教室の扉は開けっ放しになっていたし、二人きりなのでさほど問題はないだろう。


「私、携帯用のアルコール消毒液を持ってきたので今、出しますね」


悠里は鞄から携帯用のアルコール消毒液を出して要に差し出す。


「ありがとう。使わせてもらうね」


要は携帯用のアルコール消毒液を受け取り、手指の消毒をする。

そして使い終えたアルコール消毒液を悠里に返した。

悠里はアルコール消毒液を机の上に置き、鞄から財布を取り出す。


「オレンジジュース、120円ですよね」


「マスクケースのお礼に奢るよ。もう手指消毒しちゃったし」


要はそう言ってオレンジジュースの蓋を開け、ジュースを飲む。

マスクケースは祖母がとっておいた包装紙で悠里が作った実質0円アイテムなのに、ジュースを奢ってもらってしまった。

悠里は手にした財布と要の顔を見比べ、そしてお金を払うことを諦めた。


「ごちそうさまです……」


奢られることを受け入れ、頭を下げた悠里に要は微笑む。

悠里は財布を鞄にしまって手指を消毒した後、オレンジジュースの蓋を開けた。

先輩とお揃いのオレンジジュース……!!

悠里は今度から、オレンジジュースはこれを買おうと思いながら飲んだ。


オレンジジュースを半分飲んだ後に蓋をして、悠里と要は水道で口をすすいだ後にアルトサックスを吹き始めた。

要は悠里に、昨日買った楽譜の中の『猫のお茶会』という曲を教えてくれた。

悠里が『猫のお茶会』の冒頭から16小節を、ゆっくりだけれどつっかえずに吹けるようになった時、要が教室の時計に視線を向けた。

時間は12:10になっている。


「そろそろ昼飯にしようか」


要に言われて悠里は肯いた。アルトサックスを吹くことに夢中になっていて空腹を感じなかったけれど、昼飯と言われた途端に空腹感が襲う。

お腹が鳴らなくてよかった。お腹が鳴ってもアルトサックスの音が掻き消してくれただろうか。

悠里はアルトサックスをサックスケースに片づけて、ケースを机の横に立てかける。

手早くアルトサックスをしまい終えた要は悠里の机を反転させて晴菜の机にくっつけている。

悠里は教卓からお昼ご飯が入った紙袋を机に運ぶ。

要は悠里を見て微笑み、トントンと自分の胸を指差した。


「高橋さん。ストラップをしまい忘れてる」


「あ……っ」


首にストラップを掛けていることを忘れていた。悠里は慌ててサックスケースにストラップを片づける。


「俺もよくやる。身体と一体化するよね。ストラップ」


要はそう言いながら悠里と自分の席にキンパおにぎりと出汁巻き玉子が入ったパックと割り箸をそれぞれ並べて、自分の側に味噌味の肉野菜炒めが入ったパックを置いた。

ストラップをしまい終えた悠里は携帯用のアルコール消毒液を要に使ってもらった後に自分も手指を消毒する。


「それじゃ、食べようか」


「はい」


それぞれに椅子に座り、悠里と要は『いただきます』の挨拶をして食べ始めた。

『キンパおにぎり』は常連客がキンパを食べたいと言ったことから考案されたメニューだ。

キンパは美味しいけれど巻物だからボロボロ零れて不便と客が愚痴をこぼし、店主が『だったら零れないようにぎっちぎちに海苔で巻けばいいじゃないか』と考えて真っ黒なおにぎりになったらしい。

見た目や映えを全く重視せず、味と機能性だけを追求した逸品だ。

悠里は二つ並んだキンパおにぎりを一つ手に取り、かぶりつく。

おいしい……!!

もぐもぐと咀嚼しながら、窺うように要を見る。先輩はキンパおにぎりの味を気に入ってくれただろうか。

キンパおにぎりを食べている要は、悠里と視線が合うと微笑んだ。

口に合わないというわけではないようだ。よかった。

悠里も要に笑顔を返し、キンパおにぎりを食べ進める。二人とも、一言も喋らない。

給食を黙って食べる習慣がついているので『学校で物を食べている時は喋らない』ということがしみついているのだ。


キンパおにぎりを一つ食べ終えた要は味噌味の肉野菜炒めが入ったパックを開けて、アルミホイルで包まれた二つの包みのうちの一つを取った。

そして包みが一つ入ったパックを悠里に差し出す。

悠里は会釈をして、それを受け取った。先輩と同じ料理を半分こ……!!

憧れの先輩と昼ご飯を食べられる幸福を噛み締めながら、悠里はいつもよりゆっくりと時間をかけて食べ進めた。

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