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第七十八話 高橋悠里は楽譜を買い、憧れの先輩とフローラ・カフェ星ヶ浦駅前店に行く

要と悠里は時間を掛けていろいろな楽譜を見て、最終的に二つに絞った。

アイドルや流行りの曲を吹くことができる一冊と、サックスのアンサンブル曲の楽譜だ。

悠里は要に、一冊は自分が買いたいと申し出た。二冊買うのは厳しいけれど一冊ならお金を出せる。

要は迷った末に悠里に条件を提示した。


「この後、カフェで奢らせてくれるなら、一冊楽譜を買ってもらおうかな」


「そんなっ。先輩に奢ってもらうなんて申し訳ないです」


「じゃあ、楽譜は二冊とも俺が買うね」


「うう……」


楽譜の代金の方がカフェで奢ってもらう金額よりも高いはず。たぶん。

悠里は悩んだ末に口を開いた。


「楽譜を一冊買うのでカフェで奢ってください……」


「よくできました」


要は目元をやわらげて楽譜を一冊、悠里に差し出す。

悠里は楽譜を受け取って定価を確認した。……安く買える方を渡された気がする。

要は会計をするためにレジに向かってしまったので確認することはできないけれど。

要に『よくできました』と言われて、一つしか学年が変わらないのに子供扱いされた切なさと要へのときめきが入り混じって悠里の心の中はぐちゃぐちゃだ。

でも、今ここで奇声をあげて転がりまわるわけにはいかない。そんな失態は言語道断だ。

要が会計を終えたので、悠里は楽譜をレジに出す。

財布からお金を出して会計を終え、楽譜が入った紙袋を胸に抱いた。


「高橋さんはどこか、行きたいところある?」


要に問い掛けられて悠里は困惑した。

圭と一緒ならゲームセンターに行くし、晴菜と一緒なら本屋に行く。

でも、今、どう答えたら『正解』なのかわからない。


「カフェに行きたいですっ」


奢ってもらうことを催促しているようで気が引けるけれど、カフェしか思いつかなかった。


「フローラ・カフェでいい?」


「はい。私、フローラ・カフェのカード持ってます」


「そっか。じゃあ、行こうか」


歩き出す要に続いて悠里は楽器店を出た。

下りエスカレーターに乗って一階へ向かう。


フローラ・カフェ星ヶ浦駅前店に到着した。

要と悠里はフローラ・カフェのカードを使って店内に入る。

満席と表示されなくてよかった。


店内の座席は8割ほど埋まっていた。

要と悠里は開いている二人掛けの座席に座る。

テーブルには座席と同じ数のメニュー表と消毒液が置いてある。

テーブル脇の棚には花の模様が描かれたカラフルなボックスがあり、そこにはマスクケースと紙のお手拭き、それからシュガースティックとミルクがそれぞれに入っている。

マスクケースは紙で作られていて可愛い。

要と悠里は順番に手指のアルコール消毒をしてから、メニュー表に触れた。

高くなくておいしいもの。

悠里は該当するメニューを頑張って探したが、結局いつも頼む『フローラ・カフェラテ』に落ち着いた。

要はメニューを真剣に見つめる悠里を微笑ましく見守っていたが、悠里がメニューを決めたようだと感じて口を開く。


「何を頼むか決まった?」


「はい。えっと、フローラ・カフェラテをお願いします」


「ケーキとかマフィンとかはいいの?」


「お昼ご飯をいっぱい食べたので大丈夫ですっ」


悠里の言葉を聞いた要は瞬いた後、目元をやわらげて口を開く。


「高橋さんはお昼、なに食べたの?」


「『牧高食堂』の牛丼です。テイクアウトを始めたんですよ」


牛丼を食べたと言ってしまってから、悠里は可愛くないことを言ったかもと少し後悔した。

今日のお昼のメニューがフレンチトーストとかパンケーキとかだったらよかった。


「まきたかしょくどう?」


要は不思議そうに首を傾げる。そんな姿もかっこいい。

そう思いながら悠里は口を開いた。


「『牧高食堂』は駅前にある安くておいしい食堂です。私が産まれるずっと前から営業していて、壁いっぱいにメニューが貼ってあるんですよ」


「そうなんだ。俺は一年前にこの街に引っ越して来たから、地元のおいしい店とかあんまりよくわからないんだ」


要の言葉に悠里は驚いた。

悠里が通う市立星ヶ浦中学校には市内の三つの小学校に通う生徒が集まっている。

要は悠里が通っていた小学校とは違う小学校出身だと思っていたので、市外の出身だと聞いて意外だ。


「『牧高食堂』はすごくおいしいんですよ。安くてボリュームがあって地元民は皆、大好きです。新型コロナのせいでしばらく行けてないんですけど、でも昨日からテイクアウトを始めてくれたんです」


「そうなんだ。俺も食べてみたいな」


「おすすめですっ」


「場所を教えてくれる? 帰りに寄ってみる」


「それなら、私がご案内します」


「ありがとう。じゃあ、自販機で買ってくるね」


要は財布を持って席を立ち、店内に置いてある自販機に向かった。

悠里は要と約束ができたことを嬉しく思いながら、彼の姿を目で追いかけた。

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