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第百五十二話 マリー・エドワーズは『疾風のブーツ』をひとりで履けない

侍女長がレーン卿の前に箱を置き、レーン卿が箱を開けた。

真珠はマリーの膝の上に飛び乗り、マリーと一緒に期待を込めた眼差しを箱の中身に注ぐ。

箱の中には子ども用の可愛らしいブーツが入っていた。

特にブーツの羽根飾りが素敵だとマリーは思う。

レーン卿は箱をマリーと真珠の方に押しやり、微笑んだ。


「これは僕が子どもの頃に気に入って履いていた『疾風のブーツ』です。ソニックバードの羽根があしらわれていて、履くとAGI値が50上がります」


「それって素早く動けるようになるっていうことですか……っ!?」


「そうですね。成人男性の平均速度と同じくらいになると思います。このブーツを履けば、マリーさんはいつでも領主館に遊びに来られますよ」


「私が履いてもいいんですかっ!?」


「ええ。どうぞ。マリーさんの知見はとても興味深いです。いつでも気軽に私を訪ねて頂けると嬉しい」


「今、履いてみてもいいですか?」


「ええ。履いてみてください。グラディス。マリーさんがブーツを履く手伝いをお願いします」


「かしこまりました」


マリーの膝の上にいた真珠は、身軽に床に飛び下りる。


「あの、私ひとりで履けますっ」


マリーは箱からブーツを取り出して木靴を脱いだ。

そしてブーツを箱から取り出して紐を解き……解けない……。

侍女長はマリーの手から『疾風のブーツ』を取り上げて苦笑する。


「マリーの手はまだ小さいですから、できないこともあるでしょう」


「でも、ひとりで履けないのは困ります……」


マリーは侍女長にブーツを履かせてもらいながら項垂れた。

悲しそうなマリーを見つめて、真珠も悲しい気持ちになる。

項垂れるマリーを見つめていたレーン卿は口を開いた。


「母が少女の頃に使っていたリボンはまだありますか? 僕が子どもの頃、女の子の格好をさせられた際に髪に結ばれた記憶があるのですが……」


えっ!? レーン卿って子供の頃に女装させられていたの……っ!?

マリーと真珠は目を丸くしてレーン卿を見つめる。

侍女長はマリーに『疾風のブーツ』を履かせてから立ち上がり、レーン卿に視線を向けた。


「ございます。ですが、レイチェル様の私物を勝手に持ち出すことは致しかねます」


「あのリボンは女装を強いられた僕の物になったと認識しています。母は可愛らしい少女が好きなので、マリーさんに使っていただけるのであれば喜ぶでしょう」


「かしこまりました。では、リボンを持って参ります。少々お待ちくださいませ」


侍女長はレーン卿に一礼して部屋を出て行く。

『疾風のブーツ』を履いたマリーは椅子から下りた。

ブーツは、マリーには少し緩いけれど侍女長がしっかり紐を締めてくれたので軽くジャンプしてもしっくり来る。


「マリーさん。よく似合っていますよ」


「ありがとうございますっ」


「わうーっ。わんわんっ」


真珠がマリーの足元にじゃれつく。

マリーと真珠は部屋の中をぐるぐると歩き始めた。


「すごいっ。身体が軽い……っ」


「それはよかった。その箱には履いてきた木靴をしまってください。帰りは馬車で『銀のうさぎ亭』までお送りします」


「いいんですか? 馬車とか、このブーツとか、すごく高価ですよね……?」


「友人のための贈り物ですから、マリーさんは気になさらないでください」


レーン卿は麗しい微笑を浮かべて言う。

美形で優しくて高価な贈り物を嫌味なく贈ってくれるレーン卿はまさしく、乙女ゲームの攻略対象にふさわしい。

情報屋に、乙女ゲームを求める女性プレイヤーに自信をもってレーン卿をおすすめしてほしいと言おうとマリーは思った。


若葉月18日 夕方(4時45分)=5月7日 19:45

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― 新着の感想 ―
[一言] これが...上げたCRMの効果...! もしくはろりこ...これ以上はやめておきましょう、一部の人の夢が壊れる 幼少期の記憶から小さい子には優しくしてあげたいのでしょう、ええ パソコン修理…
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