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第百四十四話 マリー・エドワーズと真珠は港町アヴィラの領主ヴィクター・クラーツ・ アヴィラに挨拶する

ナナに案内されてふかふかの絨毯の上を歩きながら、マリーと真珠は周囲を見回す。

廊下には美しい絵画や花瓶に活けられた花が飾られていて、とても綺麗だ。

泥棒に入られなければ『銀のうさぎ亭』にも絵画や花瓶があったのに……。

絵画や花瓶がなくなってしまって宿屋の入り口が寂しいので何か客の目を惹くものが欲しいと考えて、マリーは首を横に振る。

まずは借金を返すことが先だ。


ナナに案内されて食堂の入り口にたどり着いたマリーと真珠の姿に気づいた侍女長が歩み寄り、微笑む。

ナナに次の仕事を言いつけてから、侍女長はマリーと真珠に視線を向けて口を開いた。


「おはようございます。マリーさん。真珠」


「おはようございますっ」


「わうううわううわうっ」


侍女長はマリーと真珠に微笑み『クリーン』をかけた。


「領主様とレーン卿がお食事をなさっています。マリーさんは席につきなさい。真珠はマリーさんの足元に座るように。いいですね?」


「真珠も一緒に座ったらダメですか? 私の膝の上に抱っこするとか……」


「くぅん……」


「いけません。高貴な方々との食事ですからね。テイムモンスターは床で食事をするように」


「だけど真珠は小さいです。膝の上で抱っこできます」


「わうー。わぅんっ」


真珠は耳をぴんと立ててマリーを呼び、そして侍女長に視線を向けて肯いた。


「真珠はわかってくれたようですよ。マリーさん」


「真珠。私が抱っこしなくてもいいの?」


マリーは身を屈めて真珠と視線を合わせ、首を傾げながら問いかける。

真珠は肯いて、力強く鳴いた。マリーは真珠の頭を優しく撫でて口を開いた。


「そっか。わかった。真珠、偉いね」


「わうんっ」


真珠は誇らしげに胸を張る。


「では席に案内します。ついてきてください」


侍女長に先導されて、マリーと真珠は食堂に足を踏み入れた。


領主館の食堂はテレビで見たイギリスの貴族が主役のドラマに出てくる、貴族専用の食堂のようだった。

四角く長いテーブルには磨き上げられて装飾が美しい背もたれのある椅子が並ぶ。

テーブルクロスは輝くような白さだ。

天井にはシャンデリアがある。今はレースのカーテンに縁どられた大きな窓から光が差し込んでいるから明かりはついていない。


奥の席にはレーン卿がいた。彼に良く似た顔立ちの壮年の男性と向かい合って座っている。

マリーはレーン卿の隣に案内され、子ども用の椅子を侍女長に引いてもらって座る。

真珠はマリーの足元に行儀よく座った。

レーン卿は食事の手を止めてマリーに微笑む。


「マリーさん。おはようございます。僕に会いに来てくださったそうですね。鑑定依頼があるということですが」


「はいっ。そうですっ。ちゃんとお金も持ってきましたっ」


マリーは緊張しながらレーン卿に答える。すると、レーン卿の向かいに座っている壮年の男性が口を挟んだ。


「フレデリック。そちらの小さなレディを俺にも紹介してくれないか?」


小さなレディって言われた!! 嬉しい!!

心の中でマリーは歓喜した。

もしかしたら『淑女の嗜み』スキルが仕事をしたのかもしれないと思いながら、マリーは彼の左腕に注目した。

壮年の男性の左腕には腕輪がなかった。彼はレーン卿と同じくNPCだろう。

レーン卿は微笑して口を開いた。


「失礼しました。伯父上。こちらの可愛らしい少女はマリー・エドワーズさん。5歳だそうです。『銀のうさぎ亭』という宿屋兼食堂の娘さんで、以前、薬師ギルドで会ったことがあります。マリーさんの足元には彼女のテイムモンスターの真珠くんがいます。伯父上の席からは真珠くんの姿は見えないかもしれませんが」


「はじめましてっ。マリー・エドワーズです。よろしくお願いします……っ」


「わうん……っ」


マリーと真珠はレーン卿の叔父上に頭を下げた。


「きちんと挨拶ができて素晴らしいね。小さなレディ。声しか聞こえなかったけれど、テイムモンスターも挨拶をしてくれてありがとう。俺の名前はヴィクター・クラーツ・ アヴィラ。港町アヴィラの領主でこの館の主だ。マリーは俺が贈った感謝状を持っていると聞いた。君は離魂病を克服した聖人なのか?」


「はい。そうです。私は聖人です。左手の中指に『聖人の証』があります」


マリーはそう言って小さな左手をテーブルの上に乗せた。

マリーの左手を見たレーン卿が口を開く。


「マリーさん。あなたの左手を鑑定させていただいても宜しいですか? 許可を頂けるのであれば、僕はあなたからの依頼を無償で引き受けます」


「許可します!! どうぞ!! 何回でも鑑定してください……っ!!」


マリーは大喜びで了承してレーン卿に自分の左手を差し出した。

前金の金貨20枚を全部、マリーのものにできる……!!

レーン卿はマリーの左手の中指に視線を向け、口を開いた。


「鑑定」


『聖人の証』の中指の付け根に天使の羽根のような痣を見られているだけなのに緊張する……っ。

マリーは息を止めて、レーン卿の鑑定が終わるのを待った。


マリー・エドワーズは前金の金貨20枚を全部報酬としてもらえるかも……?


若葉月18日 朝(2時57分)=5月7日 17:57


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