第百三十四話 マリー・エドワーズは力尽き、そして新たなフレンドを得る
私は能力値の極振りは怖くてできないタイプです。
真珠を抱っこして領主館を目指していたマリーは、力尽きようとしていた。
「なんで……? 歩いても歩いても、領主館に近づいてる気がしない……っ」
マリーは道の端に寄り、真珠を地面に下ろした。
そして自分も座り込む。
「わうー」
「真珠。ごめんね。私、もうここまでみたい……」
「くぅん……」
父親に抱っこしてもらった時は、すいすいと進んだのに……っ。
もう一歩も歩けない。マリーは途方に暮れて下を向く。
「どうした? 状態異常になってるのか?」
道端に座り込むマリーに大男が声をかけてきた。左腕に腕輪をしている。プレイヤーだ。
マリーはのろのろと顔を上げた。男の顔には見覚えがある。
「大丈夫か? 幼女」
男は身を屈め、心配そうに問い掛ける。
噴水がある広場でマリーがフレンド交換を断ったプレイヤーだと思う。
「万能薬なら持ってるから、売ってやるぞ」
「ありがとう……ございます……。でも、状態異常じゃないんです……」
マリーは彼に事情を説明した。
「領主館に行きたいのか。抱っこして連れて行ってやってもいいが、条件がある」
「お金を払う以外なら……できるだけのことはします……」
「くぅん……」
「俺とフレンドになってくれ。今度は受けてくれるよな?」
大男はマリーが広場でフレンドになるのを断ったことを覚えていた。
それでも、マリーが蹲っているのを見て声をかけてくれたのだ。
「はい……。フレンドに……なります。私の名前はマリー・エドワーズ……です。5歳です。この子は……私のテイムモンスターの真珠です。白い毛並みと……青い目が素敵な男の子です……」
「俺はバージル・トムソン。『アルカディアオンライン』で一攫千金を目指す男だ」
バージルはそう言って左腕の腕輪を差し出す。
マリーは自分の腕輪をバージルの腕輪に触れさせた。
マリーの前に画面が表示される。
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プレイヤーNO62369バージル・トムソンとフレンド登録しますか?
はい/いいえ
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マリーは『はい』をタップした。画面が切り替わる。
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両者の合意が得られたのでフレンド登録されました。
詳細はステータス画面の『フレンド機能』でご確認ください。
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「フレンド登録できたな」
バージルの言葉にマリーは肯く。
「じゃあ、俺が領主館に連れて行ってやるよ」
バージルはそう言って右腕にマリーを、左腕に真珠を抱いた。
抱っこされたマリーは元気を取り戻す。真珠も嬉しそうに耳を動かした。
「バージルさん。すごいっ。力持ち……っ」
「わううわう……っ」
「ハハハッ。俺のSTR値は118だからなっ。スキルポイントを極振りしたんだぜっ」
グラフィックの見た目通りの能筋プレイヤー!!
でも、STR値に極振りということは……。
マリーはおそるおそる口を開いた。
「バージルさん。ちなみにバージルさんのAGI値は……?」
「AGI値なんて興味ねえよ。力こそ正義!!」
バージルの歩行速度はすごく遅いかもしれない。
高笑いするバージルに抱っこされながら、マリーと真珠は夜が明けるまでには領主館にたどり着けるといいなと思った……。
若葉月14日 真夜中(6時01分)=5月6日 21:01




