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夏のホラー2021『かくれんぼ』

ねえちゃ、かくれんぼ……しよ?

作者: 小畠由起子

「ねえちゃ、ねえちゃ、ぼく、マシュボーロたべたい」


 彰浩(あきひろ)美優紀(みゆき)にせがみます。美優紀はにたりと笑ってうなずきました。


「それじゃ、いつものように、お姉ちゃんといっしょにかくれんぼしよっか」

「うん、する! ねえちゃ、ありがと!」


 にぱっと顔を輝かせる彰浩を見て、美優紀はほくそ笑みました。


「それじゃあお姉ちゃんが、マシュボーロを隠してくるから、アキはその間目をつぶっててね」


 美優紀が彰浩の頭をよしよしとなでます。彰浩はコクコクッとして、それから目をぎゅっとつぶって手で隠しました。


「ふふふ、それじゃあ待っててね……」


 にやっと笑うと、美優紀は彰浩の大好きなお菓子、マシュボーロを持って自分の部屋へ戻りました。そしてふくろを開けると、全部一気に口の中へ流しこんだのです。リスのようにほおいっぱいにマシュボーロをつめて、もぐもぐすると、美優紀はようやくそれを飲みこみました。


「ねえちゃ、もーいーかーい?」

「まららよ!」


 急いで飲みこんだので、うまく答えられませんでしたが、彰浩が数を数える声がまた聞こえてきます。美優紀はふうっと息をもらして、マシュボーロのふくろを勉強机の引きだしに隠しました。


「もーいーかーい?」

「もういいよー!」


 くくくと笑いながら、美優紀が彰浩の待っていたリビングに戻ってきました。


「それじゃあアキ、がんばって探してね。マシュボーロ君、どこに隠れたのかしらね」

「うん、さがすー!」


 彰浩は元気よく手をあげて、それからドタドタと美優紀の部屋へ走っていきます。


 ――ふふん、バカね。マシュボーロはもう全部わたしが食べちゃったから、どれだけ探しても見つからないわよ。あとはいつものように、『マシュボーロ君隠れて逃げちゃったみたいね』っていっておけばいいわ。ママも、彰浩の子守りしてるわたしをほめてくれるし、一石二鳥ね――


 部屋から取ってきたマンガ本を広げて、美優紀はいすに座って読み始めました。美優紀の机は、彰浩には高すぎて登れないでしょうし、引き出しにはカギがかけてあります。美優紀はお気に入りのマンガを読みながら、キャハハと高笑いするのでした。




 ――あれ、アキのやつ、ずいぶん遅いわね――


 いつもは十分もすると、ぐったりして帰ってくるのですが、マンガを読み終わってもまだ帰ってきていません。ちらりと時計を見ると、すでに三十分以上経っています。


 ――あぁ、もしかして遊び疲れて寝ちゃったかな――


 しょうがないなとつぶやいて、美優紀は自分の部屋へ戻りました。そして――


「えっ、きゃあっ! アキ? ちょ、しっかりして!」


 部屋の真ん中には、真っ青な顔をした彰浩が倒れていたのです。ピクリとも動かない彰浩を、あわてて美優紀は抱え起こします。


「アキ、アキ! しっかりして、しっかりしてよ!」


 冷たくなったからだを必死に揺り動かして、美優紀は半狂乱になってさけびました。


「アキーッ!」




 彰浩の死因は、窒息死でした。大好きなマシュボーロのふくろをのどに詰まらせて亡くなっていたのです。泣きわめくパパとママの顔を、美優紀はまともに見ることができませんでした。


 ――わたしのせいだ。わたしが、アキを殺したんだ――


 なぜカギがかかっていたはずの引き出しから、彰浩がマシュボーロのふくろを取り出したのか? それにどうしてふくろまで口に入れて、のどに詰まらせたのか? 美優紀にはわかりませんでしたし、今となってはどうでもいいことでした。……美優紀はその日から、お菓子はもちろん、食べ物もほとんどのどを通らなくなり、どんどんやせ細っていきました。




 ――アキは、わたしが殺したんだ――


 引き出しに貯まっていたマシュボーロのふくろを、吐きそうになりながら処分して、美優紀はベッドの上で丸まっていました。今ではもう、お腹が空いているのかどうかすらわかりません。感覚がほとんどなくなっているのです。空っぽのからだには、ただただ後悔という名の黒い液体だけがめぐり、美優紀はまたしてもおえつをもらします。と、そのときです。勉強机のほうから、カサッとなにか物音がしたのです。


 ――なにかしら――


 重い頭をあげて、美優紀はヒッと息を飲みました。勉強机の上に、開けられたマシュボーロが置いてあったのです。


「どうして……処分したのに……」


 しかもよく見ると、中身がびっしり詰まっています。美優紀が処分したのは、すべてマシュボーロのふくろだけです。青い顔で美優紀は、ガチガチと歯を打ち鳴らしました。


「まさか……アキが……」


 ふるえる美優紀のうしろで、懐かしい声が聞こえてきました。


「ねえちゃ、かくれんぼ……しよ?」

お読みくださいましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アキが美優紀を恨んでいるのか、揶揄っているのか、様々な方向で考えさせられる結末が良かったです。
[良い点] 些細なイタズラ心がもたらした取り返しのつかない事態が、なんとも悲しくていたたまれないですね。 作中では姉の美優紀さんが後悔の念に苛まれていましたが、子供だけに留守番させた事を両親も悔やんで…
[良い点] ギャー!と叫びたくなりましたね! 大体冒頭で読むのやめるのですが、これは最後まで読んで良かった作品だと思います。 [一言] リアル感があって、これがホラーなんだと勉強になりました(´・ω…
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