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2.入学式は出会いの場 ~なのにイベントが消えちゃった?!~

「エリザベスお嬢様、オスカー殿下がお越しです」

「え?」

聞いてない。聞いてないよ。

今日、私は、オスカー殿下とティアナが出会う瞬間を目の当たりにする。

それは私にとって、ある程度の覚悟がいるわけで。

だから「入学式は別々に行きましょう」と言っておいたのに。

シナリオは変えられないようだ。


「すぐ、行きます」

私はもう一度鏡を見る。

「大丈夫。大丈夫よ。私は悪役令嬢だもの」

そう言い聞かせて部屋を出た。

それなのに…。


ぐはっ!


早速やられた!

真新しい制服に身を包んだオスカー殿下が、我が家の玄関に立っている…神々しいその姿を一目見て、私は心の中で血を吐いた。

これが生で見る制服姿…なんて破壊力! なんて尊いんだ!!


「おはよう、エリザベス。別々に行こうと言った時の君の表情が心細そうに見えてね。気になったから思い切って迎えに来たんだ。今日は登校初日だし、一緒に行ってくれるかい?」

(はい、もう喜んで!!)

心の中で食い気味に叫ぶ。

しかし表面上は平静を装ったままだ。

「あら、私、心細そうでしたか。オスカー殿下は心配性なのですね。せっかく迎えに来てくださったのですから、共に参りますわ」

「じゃあ行こうか」

オスカー殿下のエスコートに、私の心臓はドキドキのバクバクだ。

まだ止まるなよ!私の心臓!!


***


ゲームでのこの日のシナリオはこうだ。


馬車を下りて校門に向かうと、慌てて駆け込んできたティアナとぶつかりそうになる。

オスカー殿下は彼女を支え、「大丈夫かい」と声をかける。

この時、ティアナはその男性がオスカー殿下だとは気付いていない。

だから物おじすることなく会話を始める。


「ありがとうございます。ふふ、あなたと一緒に倒れるかと思いました」

「僕はそんなに頼りなく見えた?」

「いえ。ただ、男の人にしてはちょっと細身に見えたものですから」

「君を支えるぐらい、何てことはないよ」

「ええっ?!私、結構重たいですよ」

「とんでもない。羽毛を抱いているかと思ったよ」


そんな2人の会話に、私の怒りが爆発する。

「あなた、先ほどから無礼ですよ。この方は我が国の皇太子、オスカー・ウェールズ殿下です。あなたのような方がみだりに話しかけてよい相手ではありませんのよ」

「あっ、私、知らなくて…本当に申し訳ございません」

「気にしないで」

オスカー殿下がにっこり微笑む。

頬を染めたティアナは一礼すると、小走りで立ち去った。

「オスカー殿下は優しすぎます。学院にはどんな方々がいるか分かりませんのよ。用心するに越したことはありませんわ。」

「あの子は無害そうだったけどね」

そう言って彼女を見送るオスカー殿下の優しい表情に、私はグッと唇を噛みしめる。


シナリオ通りなら、こうなるはず。

さあ、馬車が着いたわ。覚悟を決めるのよ、私!


***


「思っていたより早く着いたね。まだ時間もあるし、ゆっくり行こう」

「そうですわね」

私はツンとした表情で答えつつ、辺りを素早く見渡す。


いや、わかっている。自分がほんの少し挙動不審なことぐらい。

でも仕方がないじゃない。

同じ学院の制服を着て隣を歩く――このシチュエーションに萌えないわけがない。

その一方で、いつティアナが来るかと緊張もしている。

にやけそうになりつつ、緊張で顔が引きつるとか、うん、私の表情筋、大丈夫か?!


その時だった。

「きゃっ」

という可愛らしい声がした。

「大丈夫かい」

オスカー殿下が声をかける。

「ありがとうございます。あの、オスカー殿下ですよね。私、コーネル男爵家の長女でミリアと申します。私のことはミリーと呼んで下さいね。こうしてオスカー殿下と同じ学院で学べるなんて夢みたいです。もう昨日からドキドキで、夜も眠れなかったんですよ」


ペラペラと一方的にしゃべり続けるこのミリアとかいう女性。

私は茫然と彼女を見た。

だってここでぶつかるのは、ヒロインのティアナ・グランツであって、こんなキンキン声の子ザルじゃない。

え?じゃあティアナは?ティアナはどこ?

私は目を凝らし周囲を見渡した。


あ、いた!

ミリアが大騒ぎしている間に、ティアナは何事もないかのように門をくぐり、校舎に向かって歩いていた。

「あ、待って」

思わず声をかけた。

しかし彼女は振り返ることなく校舎に入っていった。


見間違い?

ううん、あの特徴的なふわふわの淡いピンクの髪を見間違えるはずがない。しかもゲームと同じ愛らしい顔だった。

でもおかしい。

これまで私がどれだけシナリオを改変しようとしても、それを元に戻そうとする強制力によって、イベントを避けることなんて絶対に無理だったのに。


(そうよ、まだ入学式を終えるまではわからないわ)

そう思ったが、この後も何も起きなかった。

ティアナとは同じクラスになったが、彼女は廊下側の一番後ろの席で、ホームルームが終わるとすぐに教室を出て行った。


一体、どういうこと?

ミリアの介入がストーリーに影響した? 彼女は一体何者?


はあ~、私はちゃんと覚悟を決めて今日という日を迎えたのに…もうっ!入学式の出会いイベントはどこに消えちゃったのよ!


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